A.卵料理
 「シルバーストーン加工」のアルミニウム製の赤いフライパンが、スーパーマーケットで安く手に入る。手入れが悪いと長持ちしないが、外食2回分ほどの金額で、料理の基本的道具を買うことができる。サイズは直径24pで十分である。表面に傷がつくと焦げつくので、専用のプラスチック製フライ返しとセットで使用する。

1.目玉焼き
 まず目玉焼き(フライドエッグ)を作る。フライパンを中火にかけ少し熱してから、軽くサラダ油をたらし、フライパンを揺すり、油を全体に広げる。シルバーストーン加工は油も弾く性質があるので、油は鉄製のフライパンのようには広がらない。まだらになるが気にしない。……卵は殻や血が料理に入らないように、1度お椀に割り入れておく。これは卵を割る場合の基本である。
 生卵を2つ分、フライパンに流し入れ、卵が隠れるように鍋に蓋(専用の強化ガラス製ふたがあればいいが、他の鍋のふたでもかまわない)をする。固まってから黄身が固まるまでに案外時間がかかる。急ぐときには蓋をしないで、フライ返しでひっくりかえす(ターンオーバーと言う)。
 急がないときは少量の水をフライパンにたらし、蓋をして、黄身の表面がうっすらと固まるように、火を弱くして1分間ほど蒸し焼きにする(サニーサイドエッグと言う)。
 蓋をしないでそのまま焼くと、白身のふちだけが焦げて、黄身は固まらず生のままという状態が続く。白身部分が透明から白色になったなら火を止めて、大きめの皿に移す。
 食べる人が塩を振る。

目玉焼きは包丁を使わない。和食にも洋食にも合う。ベーコンを丁寧に延ばしてフライパンで焼いて、目玉焼きの隣に盛りつければベーコンエッグ。ボンレスハムやロースハムを焼いて目玉焼きの隣に置いてハムエッグ。

 使用する豚肉の部位の違いで、もも肉がボンレス、もも肉で骨が付いているのが骨付きハム、ロースはその名のとおりロースを使う。プレスハムは各種の肉をプレスしてハムにしている。
 生野菜を添えて、バターロールやトースト、りんごやトマト、パインジュースにコーヒーがつけばホテルの朝食のメニューである。一人前1000円以上の料理ができた。
 ご飯にのせれば目玉丼で、半生の黄身に醤油がよく似合う。

2.卵焼き
 「ありきたりでつまらない」と思うでしょう。しかしこれぐらいバラエティーに富み、和食・洋食いずれでもOKという料理は少ない。また「卵焼き定食」がないので、外食で卵焼きを食べる機会も少なく、その意味では代表的な家庭料理である。
 このごろはご馳走の部類に入らないので、よその家庭の味を知らず、自分の家の物しか頭にない人も多いと思う。その家庭の味が、その人のお袋の味であり、それだけバラエティが多い料理である。
 まずは和風卵焼きから
 伝統的な江戸風は甘い卵焼きで、鮮やかな黄色が身上の厚焼き卵焼きであり、江戸前握りずしの卵焼きを思えばいい。
 卵2個をボールに割り入れ、箸で上下に大きく円を描きながら、卵が器からはみださないように、そして白身と黄身が均等に混ざり合うように、ゆっくり溶き、かき混ぜる。少量の砂糖とひとつまみの塩を入れる。味醂(料理用の甘い、糖化させた日本酒)を入れてもよいが焦げやすくなる。
 フライパンに油をひき、溶き卵を数回に分けてフライパンに流す。
 1回目はフライパンを中火にして少し熱してから、溶き卵をまんべんなく円形に伸ばす。表面の液体が固まったなら、端から箸で丸める。折り曲げる要領で端に寄せ、空いたフライパンの表面に2回目を流し入れる。同様に端に巻いて3回目で仕上げるのだが、厚めにして2回で仕上げてもいい。食べるのは自分なのだ。
 卵の固さ(火の通り方)が足りないと上手に巻けない。巻き終わったなら火を止めて皿に移し、ナイフで輪切りに切れ目を入れ(少しづつずらして盛るときれいに見える)、大根おろしを添えて、少し醤油をかけて食べる。
 お弁当や朝食のおかず用には、味つけにする。味をつける調味料には砂糖・塩・醤油・味醂が使われる。色は多少悪くなるが、「そばつゆ」用の濃縮だし汁が手軽で味もよい。
 少量の濃縮だし汁と砂糖を溶き卵に入れ、よくかき混ぜて卵焼きを作る。ねぎのみじん切りを入れて、かき混ぜて焼くと香りがよい。挽き割り納豆を入れるのもボリュームがあり、うまい。この場合もねぎを脇役に入れる。
 砂糖を全く使わずに、ねぎのみじん切りと塩だけの卵焼きも、色が美しく独特の味となる。
 慣れたなら出し巻き卵焼きを作ってみたい。溶き卵の量の2割程度のだしを加えた、柔らかい卵焼きであり、高級な和食である。だしは甘さの少ない、濃い目のそば用濃縮だし汁を薄めて使う。かけ蕎麦のつゆの割合よりも薄目に作り、溶き卵と混ぜる。さきほどの卵焼きは3回に分けて巻いたが、それより多く、4回ぐらいに分けて薄めに焼き、固まったなら丁寧に端からフライがえしで巻く。四角い玉子焼き専用フライパンでなく、丸いフライパンでも十分できる。
 本物は竹のすのこで固く巻いて形を整えるが、フライパンで巻いただけでもよい。竹のすのこは百円セールで売っているので、有ってもおもしろい。細巻きのすしも作れる。
 焦げつかないフライパンを使うことがコツであり、火が弱すぎると卵にやわらかい部分ができて裂け目が入る。中火でバウムクーヘンのように一層づつ巻いていく。
 大根おろしに紅生姜を添えて、少量の醤油を大根おろしにかけて食べる。
 次は和風オムレツ
 挽き肉と玉ねぎを、薄い塩味をつけてフライパンで炒め、溶き卵に混ぜ込む。濃縮だし汁で味をつけ、フライパンに全量を流し入れて、じっくりと中火〜弱火で焼く。底が少々焦げても気にしない。上部が固まってきたならフライがえしでひっくりかえし、両面を焼いてでき上がり。
 プレーンオムレツ
 卵2個をよく溶き、塩・胡椒で味付けしたものを、バターを溶かした熱したフライパンに一度に入れ、箸で手早く、大きくかき回す。
 均等にやわらかく固まりかけたところを、フライパンの向こう側にまとめ、フライパンの柄を別の手で叩き、細長く形を整えながら丸めて作る。しかしアルミ製フライパンは、肉が厚くて柄が短く、柄を叩いてもうまくまとまらないので、形には気を使わないで作る。
 底と縁のカーブも、柄の長い鉄製の、昔からのオムレツ用フライパンと違うので、実はオムレツには向かないと思っている。
 形が崩れたなら、そのままかき回して、スクランブルエッグにしてしまう。この場合も焼き過ぎないように注意し、卵のフワフワ感を残す。
 醤油味にしたスクランブルエッグが炒り卵である。

 東京名物には卵焼きも入ると思う。江戸前握りずしにはつきものであり、私がたまに出かけた浅草や日本橋方面の居酒屋のお品書きにも、卵焼きがある。実は酒の肴でもある。単純な料理であるが、応用範囲は広い。幕の内駅弁の3種の神器は卵焼き・焼き魚・蒲鉾なそうである。

3.ゆで卵(ボイルドエッグ)
 たかがゆで卵である。地面から蒸気が噴き出ている温泉地では茶店で売っている。見ると無性に食べたくなる。ゆで卵といっても半熟卵・固ゆで卵・温泉卵と3種ある。
 鍋に卵と水を入れて火にかける。水の量は卵が隠れるぐらい。沸騰してからの時間が、約8分で固ゆで卵となり、その途中の3分から5分が半熟卵であり、時間になったら湯を捨てて水をかける。冷水で急に冷すと、殻がむきやすいと言われているが、そうしても殻がむけないことが往々にしてある。時々嫌になるぐらい殻が白身にくっつく。私は20年間機会がある都度、料理番組や本を見てきたが、むきにくいゆで卵の発生原因に言及したものは、読んだ記憶がない。誰か研究して欲しい。
 私の経験則から 
@ 室温に戻しておく(暖めておく)
A お湯を沸かしてからゆでる
B 湯に入れる前に湯に塩を入れる
 これで剥きやすくなる。

以下は平成14年3月17日 追記
 今まで料理関係の本をたくさん読んできた。しかし剥きやすい茹で玉子の作り方を書いた本は見たことがない。
 三陸はるか沖地震の時、「レストラン我が家」ではおでん用の茹で玉子を大量に剥いていた。剥きにくくて、文句を言っていたときにいきなりグラグラとゆれ始めた。平成6年12月28日 午後9時19分だった。

 平成12年か13年の夏、読売新聞の読者投稿「気流」欄に、80歳を過ぎたおじいさんの投書が載った。パン屋さんをしていた方で、戦後すぐに「おかずパン」を作って、大繁盛したという話であった。ゆで玉子を使うパンの評判がいいので工場を拡張した。夏はゆで玉子が簡単に剥けるが、冬になると剥けなくなるので困った。困り抜いて一計を案じて、玉子を電気毛布にくるんで温めてから茹でたところ、ものの見事に簡単に剥けたという内容であった。私が半世紀以上生きてきて、初めて「茹で玉子を簡単に剥く方法」のヒントに出会った。料理の本ではなくて人生を振り返ったエッセーの中に混じっていた。

 今は冬である。この玉子は三陸はるか沖地震と時と同じ冬の、剥きにくい時期の玉子である。右側の玉子画像のとおり、つるっと剥けた。魔法を使ったのだ。
 「玉子を冷蔵庫から出す。鍋に水を入れる。お湯を足してぬるま湯にする。その中に玉子を入れる。しばらくしてからコンロに火をつける」   パン屋さんのおじいさんのアドバイスのとおり、「夏の玉子」にしてから茹でたのだ。


 湯を沸かしてから卵を入れると、殻が急に膨脹してヒビが入り、中身が湯の中にはみ出してくる。しかし温泉場では最初からお湯に入れる。
 固ゆで卵の味つけは塩が普通であるが、私は醤油が好きであり、たらこや明太子と一緒に食べるのもうまい。
 固ゆで卵は殻をむき、大きめの器に入れてフォークで潰し、塩とマヨネーズを加えてサンドイッチの中身にする。
 温泉卵は家庭料理の本にも出てこない。なかなかうまく作れないし、料理と言うには単純すぎるからであろう。しかしいい加減に作ると、これぐらい簡単な料理はない。鍋に湯を沸かし、沸騰する直前で火を止める。沸騰してから水で薄めてもよい。80度前後に保つように生卵を入れて放置し、少し冷めたらまた弱火にかける。沸騰しないように火を止め、30分ぐらい見張る。休日の朝に新聞や本を読みながら、CDでも聞きながら作る料理である。
 もっと簡単な作り方がある。生卵を2個アルミホイルにくるみ、保温中の電気釜で、ご飯の空いている部分に40分転がしておくだけである。白身も、柔らかく少し固まってしまうが、ちゃんと温泉卵らしくなる。
 割って器に移し、博多ねぎのみじん切りを入れ、麺つゆを少量たらして、ご飯のおかずにする。風邪をひいて面倒な時などに試してみて下さい。黄身が固まる温度が、白身が固まる温度より低いので、その温度差を利用したものが温泉卵である。
 熱湯でゆでて、外側の白身が熱で固まり、中央の黄身に熱が伝わらないうちに火を止めたものが半熟卵である。
 最後はポーチドエッグ(Poached Egg)。割った卵のゆで卵であり、日本料理にはない。黄身をソース替わりにする、ハンバーグなどのつけ合わせに最適で、極めて短時間にできる。
 小さな鍋に湯を沸かし、沸騰してから、割った卵をお玉じゃくしでそっと湯の中に入れて、お玉で丸くなるように、お手玉をして白身だけゆでる。白身だけ固まって黄身は生に近いほうがよい。
 コツは水に少量の酢を混ぜた湯を使うことである。ハンバーグ用黄身ソースの役目をもった脇役であり、味噌ラーメンの具には、ゆで卵よりはるかに合う。
 どういうわけか家庭料理にもなく、外食でも顔を見ない卵料理であり、料理本にもほとんど載っていない。

 
卵は物価の優等生と言われている。私が今住んでいる八戸市は輸入飼料の日本有数の基地であり、スーパーの特売で98円で手に入る。65gが10個で650g。特売は別として1パック150円で計算すると
 6.5kgで約1500円である。
 米は10kgが4千円とすると6.5kgでは2600円 米が1.7倍となる。
 私が子供の頃は卵かけご飯がご馳走だった。今はご飯に生卵をかけることはぜいたくであり、生卵にご飯をかけて食べたほうが安上がりになる逆転現象が起きている。

 
お正月用に伊達巻きのおまけ。お正月休みでふるさとに帰ったとき、お母さんに作ってあげよう。
 伊達巻きは普通お正月にしか食べない。お正月用品で急に伊達巻きが売り場に並ぶ。なぜ伊達巻きというのか。なぜ夏には食べないのか。仙台にしょっちゅう行くが、伊達巻き定食は伊達の本場にはなかった。駅売店では名物の笹かまとタンスモークを売っているのに。
 卵LL4個またはL5個を割る。はんぺんを1個用意する。大き目のすり鉢に卵とはんぺんをあけて、砂糖小匙1、みりん大さじ1、塩ひとつまみ、濃縮出しつゆ大さじ2杯を入れて、よくする。フードプロセッサーやミキサーを使って簡単に混ぜると便利だ。
 26センチのフライパンに油を敷き、卵全部を入れて弱火でじっくりと焼く。フライパンが大きいので焼く位置をすこしづつ移動する。
 下に焦げ目ができて上まで固まってきたらフライ返しを使い、フライパンからはがして、エイヤっとダイナミックにひっくり返す。表も弱火で軽く焼き固体にする。

 
巻き簾に移し(最初に焼いた焦げ目の方を上にして)固く巻いて形を整える。
 端には卵の中心部が入っていないので、切って味見を充分にする。市販品より砂糖が少ないので、お酒のおかずにもぴったりである。