E ご飯

 こしひかり・ささにしき・あきたこまち・ひとめぼれ・はえぬき・どまんなか・津軽ロマン・きらら397・ユキヒカリ・はなの舞・キヌヒカリと、おいしいお米が競って作られている。ご飯を炊くのは電気釜にお任せで、これもまたデザインが台所用品から脱皮して、お釜と思えないほど美しくなっている。

14.おにぎり

 近頃はどこでも売っているので自分で作ることは少ないと思うが、うまいおにぎりを食べたいと思った時や、ご飯が残ってしまった時、お夜食用にレパートリーに入れておきたい。
 基本はご飯が熱いうちに握ることであり、冷えたご飯では固まらない。味はもちろん、冷めても味が落ちないうまい米に依存する。
 お碗にご飯を1膳分よそい、お手玉をするように両手でお椀を上下・左右にゆすり、軽く形を整える。丸まったなら指で中央を開き、具を中央に入れ、手を水で濡らしてからご飯を椀から手のひらに移して握る。力加減はそのうちに分かってくる。固くても構わないが、やわらかいと崩れてしまう。

 三角形・円形・俵形と基本形は3種類ある。形の作り方はお母さん・姉妹・ガールフレンドに教わる。握って形ができたなら、手のひらに塩を少量取り(指先を濡らし、塩の容器に指先を入れて塩をつけ、反対側の手のひらに広げる)、塩がおにぎり表面にいき渡るように、もう一度握る。
 海苔は三角形の場合、焼き海苔を半分に切って縦に置き、中央部に底辺がくるようにおにぎりをのせて、手前側を折り曲げて包む。 プラスチックのお握り型もあるが、手で握るからおにぎりという。にぎりずしのような難しい物ではないので覚えておきたい。
 作る前にはよく手を洗う。

 おにぎりの中身は身近にたくさんある。明太子・たらこ・筋子・鮭フレーク・塩昆布・佃煮昆布・佃煮・種を抜いた梅干し・おかかは小鉢にパック入りの鰹節をあけて、醤油を少量たらし、箸でかき混ぜて作る。梅干しと混ぜ合わせると梅おかかとなる。味噌漬けの大根など故郷の味がする。

 スーパーで袋入りのおにぎりの具を売っているが、買わなくても身近な物で間に合う。中身を入れないで表面にふりかけをかけてもいいし、鮭フレークなどは直接ご飯と混ぜ合わせてもうまい。海苔のかわりにとろろ昆布や高菜漬けの葉で包んでもよい。焼きおにぎりにする場合には、ラップで包んで固く握る。 

15.おじや・お茶漬け

 お酒を飲んだ後のラーメンもいいが、おじやもうまい。お冷やご飯の処理方法でもある。忙しい朝でも5分もあれば熱いものができる。中身しだいでどのようにでも変身するのがおもしろい。基本は、だし汁+ご飯+溶き卵+有りあわせの具+薬味。
 小鍋に、かけそばの汁を作り、火にかけて沸騰してから具を入れ、ご飯を入れて少し煮て、鍋の中をかき回しながら溶き卵を流し入れ、卵が固まったところで、薬味を入れて火を止める。
 具は蒲鉾・竹輪・かに蒲鉾・しらす干し、冷凍の小海老・あさりのむき身・帆立貝などを小さくきざんで入れる。
 火を止める直前に、きざみねぎ・糸三つ葉・かいわれ大根などを散らすと香りがよい。
 今はきざみねぎや糸三つ葉は、フリーズドライのパックでも売られている。何もなければもみ海苔や七味唐辛子を入れる。味が薄ければ直接、濃縮つゆをかけて調整する。

 お茶漬けには色々な意味がある。
 ご飯にお茶をかけて食べる意味が一般的だ。お茶はかけないが、味噌汁やお吸い物がつかない、特にこれというおかずをつけない漬物定食もお茶漬けという。但しこの場合の漬物は種類が多い。紫葉漬・日野菜漬・壬生菜・すぐきなど京都特産の漬物を始め、茄子やきゅうり・かぶ・沢庵漬、奈良漬、梅干しを鉢に美しく盛り合わせ、焼き海苔とお茶を添えた軽食である。

 お茶漬けを売り物にする店のお茶漬けには、お茶のかかっていないものも多い。お茶ではなく、だしをかけるのである。本格的にだしを取るのは面倒なので、ここでは顆粒状の和風だしの素を使う。
 小鍋に少量のお湯を沸かし、和風だしの素を入れて熱いだし汁を作る。中ぐらいの丼にご飯をよそい、もみ海苔・梅干しをのせ、中央に練りわさびを置く。パラパラと塩を振り、練りわさびにかからないように、先に作っておいた熱いだし汁をかける。

 味は海苔の香りと塩加減にあるが、薄目に作り、塩が足りなかったらまた塩を振ればいい。鮭茶漬け・たらこ茶漬けの場合も、海苔はたっぷりと使用する。

16.オムライスとチキンライス

 オムライスは大人には懐かしい洋食であり、チキンライスは子供の大好物である。最初にもってきたのは、実は炒飯より簡単だからである。炒飯は「美味しんぼ」の山岡さんに腕を試されるので、上達してから挑戦する。ご飯は熱くても冷たくてもいい。ハムかベーコン、ショルダーベーコンをきざんで中身にする。玉ねぎを入れるとうまいのだが、面倒なら入れなくてもいい。

 オムライス ご飯の部レシピ
 ごはん 丼に一杯分
 ハム  スライスを4枚
 1.5mm幅に切り、重ねてさらに1.5mmにカットする
 たまねぎ 中サイズ 4分の1    みじん切り
 ケチャップ 大さじ4杯
 塩・胡椒
 サラダオイル 少々
 たまねぎは根の部分をつないだまま縦に切れ目を入れ、次に横にカットしてみじん切りを作る。ナイフは立てて使うと形が崩れない。

 料理用計量スプーンについて

 大さじ  15CC
 中さじ  10CC
 小さじ   5CC
 3本セットで売られている。使う場合は山盛りにしてはいけない。粉を計る場合はすり切りが基本である。平らにして割り箸などで表面をこそげ取ってすり切りにする。ケチャップなどの場合は「これぐらいが平面かな」程度のいいかげんさでかまわない。 

 フライパンにサラダ油をひき、野菜・ハムの順(火がとおりにくい順)に炒め、ご飯を入れる。ご飯は自分の食べる量を、あらかじめ丼で計っておく。シルバーストーンのフライパンは、金属製の物で表面をこすると傷がつくので、竹のしゃもじやプラスチック製のフライ返しを使用して、ご飯を切るように、潰さないようにして炒める。
 ご飯の塊がほぐれたなら塩・胡椒して、一旦火を止めて、ケチャップを入れて味つけする。バターがあればご飯を炒めている時に少量加えると風味が増す。
 特においしいオムライスを、気合を入れて作ろうと思うときは、ケチャップだけではなくトマトピューレー(味をつけないトマトのペースト)をケチャップと半々に入れて作る。業務用の味に近づく。但しトマトピューレーは保存が利かないので、後で何に使って片づけるかを考えること。

 炒飯より簡単というのは、味つけが塩・胡椒・ケチャップだけでよく、炒め方のせいでご飯が多少ベタベタしても、大勢に影響がないからである。(ここまでの過程でハムを鳥肉にかえたものがチキンライスであり、玉ねぎが必需品である)
 ご飯ができたなら火を止め、一旦ご飯を丼に移しておき、フライパンをキッチンペーパーで拭き取り、卵焼きの準備にかかる。 卵2個をボウルに割り入れ、少量の塩を振り、よくかき混ぜる。きれいなフライパンに少しのサラダ油をひき、中火にかけて、フライパンを十分に温めてから(焦がしてはいけない)溶き卵を流し込み、均等に丸く広がるようにフライパンをゆする。
 中火でフライパン全体に火が渡るように丸く移動させ、卵が固まりかけたなら火を弱めて、オムライスの形になるように、中央に縦に細長く、先ほどのご飯をのせる。

 ご飯の形ができたなら、火を強火にしてフライパンをゆすり、卵とご飯がフライパンの上で自由に滑るようにする。ここがコツであり、火が弱いと卵がフライパンにくっつき、滑りがわるくなる。手早くやらないと卵に焦げ目がつく。
 滑ったならすぐに火を止めて、片手にフライパン、片手に皿を持ち、フライパンから徐々に、できたオムライスを皿に滑らせ、最後に皿の上で卵が反転するように、フライパンをひっくりかえす。 
 卵の端がまくれ、皿の下に隠れると一人前である。上にケチャップをかけてパセリを添えると本格的である。
 運悪くご飯が卵の間から顔を出したときには、ケチャップで隠してしまう。お料理おばさんも、テレビの料理番組の中で失敗した時に、そのようにしていた。「かりあげクン」はケチャップでマズソーと書いていたが、私はバースデーケーキのように、子供の名前を書く。

 フライパンの上を滑らせるためには、焦げつかないフライパンでなければならず、鉄製のフライパンではプロでなければ、焦げつかないようにする手入れが難しかった。素人にオムライスは、事実上無理であった。シルバーストーンのフライパンのお陰で、自分で作れるようになった。

17.ドライカレー・炒飯

 ここでいうドライカレーとは、カレー風味のスパイスを利かせたチャーハン風だと思ってください。
 野菜は玉ねぎとミックスビジタブル、マッシュルーム。肉は鳥肉でも豚肉でも、あるいはベーコン・ハムでもよい。マッシュルームが入ると品がよくなるので、小さな缶詰を常備しておく。(使う時に買うのではなく、缶詰は安い時に買い込んでおく)

 玉ねぎは縦半分に切り、頭部と根の部分を切り落として皮をはぐ。端から5o間隔にナイフで引き切り(材料の奥に刃を立てて、刃先をまな板につけたまま刃を入れて、手前に引いて切る方法であり、切った後に材料の形が崩れない。沢庵=たくあんなどの漬物はこの様にして切ると、形が美しい)にして玉ねぎスライスを作り、さらに90度回転させてから小さくきざむ。肉は小さな角切りにする。
 フライパンで肉と野菜を炒め、塩・胡椒する。火がとおり下味をつけてから、ご飯を入れてカレー粉と塩を振りかけ、ご飯の塊をほぐしながらご飯を炒める。
 少量のケチャップを加えると味に深みが増す。ゆで卵を砕いた物を混ぜ合わせて火を止める。

 炒飯は、焼豚と玉ねぎ・卵が本格的な材料であるが、焼豚のかわりにベーコン・ハムでもよい。蒲鉾や竹輪をきざんで混ぜ入れたものもうまい。長ねぎは焦げると黒くなる。むき海老やカニ蒲鉾・しらす干し・ミックスビジタブルなど、材料にはこだわらない。
 フライパンで材料を強火で炒め、火がとおったところにフライパンの片側をあけて、生卵を1人前1個分割り入れ、竹べらか木べらでぐるぐるとかき混ぜる。卵が固まったところで塩・胡椒をして、全体を混ぜ合わせ、ご飯を加える。ご飯が熱くなるようにフライパンを奥から手前に、円を描くように振り、焼飯らしく仕上げる。

 焼飯はケチャップもカレー粉も使わないので、味つけが難しい。焼飯の素を使うと簡単だが、町の料理店では使っていない。塩・胡椒した後に仕上げの段階で、きざみねぎを入れて、少量の濃縮だし汁をたらし、かき混ぜるだけでグンと風味が増す。町のお店のように化学調味料を入れてもよい。

 私のお薦めは、インスタントラーメンの醤油スープを使って味つけする方法である。市販の醤油ラーメンの、液体スープの素を使用すると本格的な味になる。
 焼飯を作るときは、一度にたくさん作らないことがコツであり、一度でせいぜい2人前ぐらいにする。量が多いと火がとおらず、ベタベタになってしまう。またフライパンを振ったときに、周囲にこぼれ落ちやすいからである。

 焼飯のときはおかずが少なくなりやすいので、冷蔵庫の中を整理して、いろいろ栄養をとる。ザーサイやかいわれ大根などが使える。

18.ご飯の友

 ア.納豆
 納豆は関東・東北地方の食べ物であり、以前は西日本では匂いが嫌われ、あまり食べられなかったそうである。近年は西日本での消費量の伸びが著しい。朝ご飯のおかずとして、辛子を入れて醤油をかけて食べるのが一般的であるが、それだけではもったいない。

 粘りがきらいな人は、大根おろしを入れると味もよくなり、粘りけが気にならなくなる。納豆が糸を引かないのだ。

 お薦めはきざみねぎと混ぜて、ご飯にかけることであり、辛子より遥かにうまい。手巻きずしの中味にもなる。ねぎはできるだけ小さくきざむ。ねぎの切り口に、縦に何本か切れ目を入れておき、端から小口切りにきざむといきなりみじん切りができるので、手間がかからない。

 朝食のおかずだけではもったいなく、もみ海苔をかけて夕食の一品にもなる。ご飯にかけて食べるのが普通であるが、逆に納豆を丼にあけ、ご飯を入れてかき混ぜ、その上に焼き海苔をたっぷりとのせ、目玉焼きを2個のせて醤油をかけると、簡単な丼ご飯になる。

 イ.たらこ・明太子・筋子
 保存食品なので機会があれば買っておく。筋子はすぐに中味が溶けて流れるので、長く置けない。食べる分だけ取り分け、後は冷凍庫で保存する。

 食べやすい大きさにするには、ナイフで切ると卵の中身が溶け出すので、箸と手で丁寧にバラす。買うときも流れだしていない物を選ぶ。ご飯にかける・手巻きずしの具にする・おにぎりの中味・お弁当のおかず・スパゲティ・卵焼きの具など、あれば使い道は結構ある。

 

 

 ウ.佃煮
 保存が効く常備食で、一品手元に置き、おにぎりの中味やご飯のおかずにする。あみ・小魚・蜆などの魚介類、ふき・葉唐辛子などの野菜類、海苔・昆布の海藻類があり、暇な時には手作りもできる。
 手作りの材料は牛肉・パックのシメジ(本名はヒラタケ)・帆立貝・海苔・小女子などを単体で使うが、干し椎茸を混ぜてもよい。
 素材を鍋に入れて、砂糖・味醂か酒・醤油を加えて、弱火で20分〜30分コトコト煮詰めるだけであり、なにより無添加・手作りである。自作だからこそ調味料はシンプルに、甘すぎないように作る。味が物足りないときには、日本のスパイスである山椒や一味唐辛子を加える。

 エ.大根の葉
 大根の葉を食べたことはありますか?大根は葉を切り落として売っているので、最近はなかなか手に入らない。葉がついたままだと、葉が成長するので、本体のいたみが早くなるのだ。
 葉が手に入ったなら炒め物にする。葉の部分をよく洗い、水気を切って太いほうから2センチぐらいに切りきざむ。フライパンにサラダ油をひいて油炒めにする。
 油揚げのみじん切りとしらす干しも入れる。少量の砂糖を加え、醤油を入れて味つけする。
 これも味を濃くしないでシンプルに仕上げるのだが、ふりかけにするように水分を飛ばしてもよいし、逆におひたしのように水分たっぷりでもいい。近頃は食べる機会が少なくなった惣菜であり、ご飯がすすむ。

 オ.挽き肉のそぼろ
 子供達の大好物である。鳥そぼろ弁当は駅弁にもあり、おなじみの味である。肉は牛・豚の合い挽でも鳥肉でもよい。
 鍋に少量のサラダ油をひき、挽き肉を炒めて砂糖と醤油で濃い目に味をつけ、仕上げに溶き卵を入れる。弱火でかき混ぜて、卵が固まったならでき上がりだが、味が濃いときには卵を追加する。挽き肉と卵を別々にせずに、一緒に作ってしまう。色は悪いが味はよい。
 量が多くて残ったときには冷蔵して、翌日にまた火にかける。ご飯やお粥にかけたり、そのままおかずにしたりするが、これも包丁を使わない料理である。 

 カ.とろろ芋
 長芋をすりおろして、だし汁で割る。卵を溶いて混ぜ合わせてもよい。あまり味を濃くせずに、長芋の香りを残して、たっぷりとご飯にかけて食べる。麦とろ定食より、普通の白米のほうがうまい。特にうまい米と組み合わせると他のおかずに手がつかないくらいである。 もみ海苔をかける。


19.居酒屋定食

 私が酒飲みのせいもあり、わが家には居酒屋定食がある。これといった主なおかずがなく、テーブルに並ぶ物はニラ玉・ししゃも・冷奴・フライドチキン・おひたし・焼き茄子・肉じゃが・マカロニサラダ・キムチもやしなどである。
 メインの皿はもちろんなくて、大きめの皿や鉢に、それぞれの料理が一品づつのっており、各自が皿に取り分けておかずにする。 この内の2品ぐらいは前日の残り物であり、量は少なめで、他の2品ぐらいは冷奴やキムチモヤシのように容器から食器にあけるだけの、手のかからない完成品である。
 残りの2・3品を作ってもたいした時間はかからない。ししゃもを焼き、ニラ玉を作り、買ってきたフライドチキンを皿に盛り、といった感じであり、私には酒の肴、家族にはご飯のおかずである。
 居酒屋はビール・日本酒・焼酎に合わせ、客が自分の好みの様々な料理を注文し、すぐに料理が客の目の前に並ばなければならない。対して料理店は一定の範囲(日本料理・和食・肉料理・川魚料理・天麩羅など)を、時間をかけて料理して順に客に出す。

 「今晩の夕食はなあに?」
 「居酒屋定食だよ、何か食べたいものがあれば注文しろ」
 「出し巻きと鮪の山かけ」
 「あいよっ」とこんな調子で、注文する家族も、さすがに手の込んだ料理は言ってこない。居酒屋で季節の料理を注文する楽しみがある。
 旬の山菜の天麩羅やおひたしなど、季節のお薦め料理もある。1品づつの料理材料は極めて安い。そのかわり品数がありバラエティーに富む。さらにご飯のおかずの瓶詰があれば、実に楽しい食卓である。

20.瓶詰定食

 「瓶詰定食」とは長男の命名である。日本ご飯党の党員であり、ご飯大好き人間だ。いつか焼飯ライスかピラフライスを食べさせたいと思っている。
 ご飯のおかずの瓶詰、鮭フレーク・塩うに・塩辛・茎わかめ・ザーサイ・海苔佃煮・なめ茸など数本を食卓の上に並べ、あとは冷奴・焼き海苔・季節の浅漬けなどがあれば、夏休みの昼食に十分である。
 ハンバーガーやフライドチキンなど、洋風ファーストフード全盛時代に長男はあくまでも和風を貫きとおし、日本の伝統の味を追及している。もちろん食後は珈琲ではなく緑茶である。


21.牛丼

 若い男性の人気メニューであり、テレビの我慢番組で、空腹の極致に達した男性が食べたい物の最初にあげていた。若い男性にはお馴染みであるが、女性はカウンター方式の専門店には入りにくいそうなので、実は牛丼の味を知らない人も多いかもしれない。
 材料は牛肉スライス+玉ねぎ+こんにゃく+豆腐であり、こんにゃくと豆腐は好みで入れる。牛肉は和牛スライスで、切り落としでも細切れでも、ももスライスでもよいが、できるだけ薄いものを選ぶ。
 輸入牛肉はクセが気になる人がいるので、スパイス(料理用の香草)を使う洋風料理、カレーライスやハヤシライスなどに使用し、醤油味で比較的あっさりした作りの牛丼にはできれば避けたほうが無難である。

 鍋に水を少量入れて、つきこん(こんにゃくを太めの押し型でついたもの、糸こんにゃくの太いもの)を、食べやすい4〜5cmの長さに切って、ざるでざっと水をかけて、砂糖と醤油と少量の酒で煮る。
 適量の玉ねぎスライスと、全体の1/3の量の牛肉を入れて煮る。玉ねぎの甘みと醤油の味、牛肉の味のミックスであり、酒で味を整える。基本はすき焼きの味であり、高い牛肉を使ってもかまわないが、それはすき焼き用に回して、安い肉こそ牛丼で煮込んで食べたい。
 牛肉は煮ると固くなる。さらに徹底的に煮込むとやわらかくなる。ビーフシチューのような洋風の煮込み料理はやわらかくなるまで煮込むが、和風の牛肉料理であるしゃぶしゃぶやすき焼きは、煮込まずに生に近い状態を原則とする。しゃぶしゃぶは色が変わったところを、やわらかいうちにすかさず食べる。煮てはいけない。牛丼の場合も和風料理なので煮込まない。
 しかし煮込まなくては、いい汁の味がでない。だから玉ねぎやこんにゃくの味つけ用に、肉の1/3を使用し、汁の味ができてから残りの2/3を入れて、こちらはあっさりと煮る。輸入牛肉の場合は玉ねぎを多く入れて、しっかりと煮込む。
 丼にご飯をよそい、汁を少なめに牛肉を盛る。たっぷりと皿に盛ってもよい。ご飯に生卵を溶いてかけ、牛肉と一緒に食べる。紅生姜がほしくなる。

22.かつ丼

 とんかつは一人前や二人前を作るのは面倒なので完成品を買う。下ごしらえは例によって玉ねぎスライス。出し汁はそば・うどんのつけ汁とかけ汁の中間のものを、濃縮だし汁を薄めて、ほんの少し砂糖を加えて作る。
 卵は2個分を割って溶いておく。

 小型のフライパンにだし汁を入れて沸騰させ、玉ねぎスライスを入れて弱火で玉ねぎに火をとおす。玉ねぎが煮えたなら、切ったとんかつを、形を崩さないようにフライパンに入れて、溶き卵をかつの周辺と切れ目に流し込む。
 つゆが多いときは、卵を入れる前につゆを別の器に戻す。蓋をして強火で煮る。蓋がないと、とんかつの上にかかった卵が固まらない。卵が固まらなくてもいいのだが、完成品の美しさが全く違う。固まりかけた頃に火を止める。

 丼にのせてかつ丼にするが、皿に盛っておかずにしてもよい。かつ煮やかつ頭という。玉ねぎのかわりに長ねぎでもよい。

23.たまご丼と親子丼

 卵+具+玉ねぎ+三つ葉の丼である。
 薄切りの蒲鉾と玉ねぎを卵でとじて卵どんぶり、具が鳥肉の場合は親子丼、油揚げと卵のあぶ玉丼、蒲鉾とほうれん草で木の葉丼、牛肉と卵では他人丼と、バリエーションが豊かである。
 基本は、薄手の鍋にだしつゆを入れて具を煮て、火がとおってから、溶き卵を2個分加え、一気にかき混ぜながらフワフワ卵にする。ダイナミックに卵とつゆをかき回し、そして卵を煮すぎないことである。だしつゆはかつ丼と同じ濃縮麺つゆを使用する。麺の付け汁とかけ汁の中間の濃度にして少量の砂糖を加えるが、もちろん好みで加減する。

 小さなフライパンに鶏肉を皮が下になるように入れ、皮を焼いておく。全体は生でいい。
 丼つゆを入れ、ネギに火を通す。ネギに大体火が通ったなら、卵の4分の3を全体に入れて強火で20秒程度、蓋をして煮る。 一旦火を止める。
 蓋を開け、残りの卵を薄く全体にかけて三つ葉をのせる。再び15秒ほど蓋をして加熱する。
 丼に入れたご飯の上にかける。

 「加減」という仕事は、文字通り足らない物を加え、多い物を減らす作業であり、味加減を見るという。塩加減を塩梅(あんばい)と表現する。多い物を減らすことはできないので、しょっぱかったならお湯を加える。
 三つ葉は火を止める寸前に上にのせるが、火を止めてからでもよく、煮てしまえばせっかくの香りがとんでしまう。

 丼めしを作るための専用のアルミ鍋(薄い鍋に垂直の取っ手がついている物)は市販されているが、直径16cmの物は小さいので18cmほしい。それよりもアルミ製の丼専用鍋は焦げついて、ご飯の上に移しにくいので、これもシルバーストーンの小さなフライパン(目玉焼き用の直径18cm)が使いやすい。ご飯にのせるときに滑りがよい。

24.天丼

 天丼は揚げたてに限る。しかし天麩羅を揚げるのは一人暮らしでは厄介である。天麩羅は大きな鍋に、たっぷりの量の油がないとカラリと揚がらない。必然的に天麩羅鍋や揚げ油の保存容器、天かすをすくう網、揚げ箸が必要となり、その保管スペースや揚げ油の最終処分なども考えると所帯道具となってしまう。
 また油を熱して、数種類の種を小人数分、魚や野菜を準備する手間を考えると非効率的であり、かつ、油が飛び散って掃除も大変である。よって天麩羅の作り方は書かない方針とした。
 自分用の天丼の天麩羅は、スーパーの天麩羅を買ってきて、ご飯にのせてつゆをかけるのが本当であるが、つゆを煮て、その中に天麩羅をつけてからご飯にのせてもよい。つゆの濃さは他の丼物と同じように、そばのつけ汁の水30%増しにする。量は天麩羅が隠れるぐらいに、少なめにする。つゆをご飯にかけすぎないように。せっかくのご飯がべちゃべちゃになる。

 買った天麩羅が残ったなら、ラップして冷凍保存する。そばに入れたり煮たりして食べる分には差し支えない。ラップをとり、丼にあけて電子レンジで20秒ぐらい解凍する。

25.うなぎ丼

 焼いてから冷凍した輸入うなぎが一年中手に入る。味もついているので、考えてみればうな丼が一番簡単かもしれない。電子レンジで解凍するのがベストであるが、ないときはフライパンにアルミホイルをしいて、ゆっくりと弱火で加熱する。
 自然解凍した冷凍うなぎを、丼に半分ご飯を入れて、うなぎを入れてから、また熱いご飯をかぶせて、ご飯の熱で温める方法もある。卵焼きの中にいれて加熱して、うな玉丼にしてもよい。

 その他、機会があればイクラ丼やウニ丼も試してみたい。ご飯の上にのせて海苔をたっぷりとかけ、少しのわさびを添える。

 鮭のたまごの事を一般の料理本ではイクラといっている。日本全国どこでも鮭のたまごをのせた丼をイクラ丼といっている。鮭の採れる地方出身の方は、故郷のおじいさん・おばあさんに、鮭のたまごを日本語で昔は何と言っていたのか聞いてほしい。絶対にイクラとは言っていないはずだ。イクラは辞書を引くと「ロシア語で魚の卵のこと」と書いてある。たらこもキャビアもイクラなのだ。
 私の故郷岩手では「はらこ」と言う。鮭のたまごをバラバラにして醤油や塩を加えて保存できるようにしたものである。筋子は卵巣のまま塩漬けにしたものである。

 さて、日本語で鮭のたまごのことを何といっていたのか。残念ながら現代の日本語にはすでに残っていない。死語となってしまった。日本の川に帰り、熱いご飯の上に載せて食べる鮭のたまごにロシア語ではなく日本語で名前を付けてあげたいと思う。古語では「はららご」という名前であった。