八助(梅漬け)
 八戸近郊の名川町・南郷村で栽培されている大きな梅(どうも杏らしい)である。梅の品種は南高梅・豊後が知られているが八助はマイナーである。インターネットでも出てこない。地元でもマイナーである。第一、街のスーパーマーケットでは売られていない。八戸市繁華街で行商のおばさんが日曜日の銀行の玄関あたりで売っているのを買ったのが最初である。その後は産直販売所・道の駅で買っている。八戸市内では駅前「ユートリー」の地場産品販売所で売っている。
 八助は大きいあんずである。初めて見た人はその大きさにびっくりする。ゴルフボールが小さく見えるのだ。肉は厚いが実は柔らかめである。これで日の丸弁当を作ったら弁当の蓋がしまらない。
 八戸は海産物が有名だ。でもお土産にするには「冷凍」「要冷蔵」「缶詰」「するめ類」が多く、季節を問わず遠くに持って行けるお土産が実は少ない。その中で八助の梅漬けは全国に通用する第一級の名品である。京都の知人を訪ねる時にお土産に困ったことがあった。冷蔵海産物は持っていけない。しばらく考えた末に決めたのが八助であった。京都は千枚漬け・すぐき・紫葉漬け・日野菜漬けに代表される漬物文化が極めて高いところである。よりによって漬物を持っていくことはないのだがたいへんに喜ばれた。大きさにびっくりしていた。8個入り500円である。梅は安い。4分の1づつ食べても1か月かかる。
 冒頭に「梅漬け」と書いたが梅干しではない。杏干しのようだ。梅干しは土用に3日干して作る。最近スーパーで売られている普及品は大体が梅漬けである。干した梅干しは高級品であり、産地からの贈答品やデパートでしか手にはいらない。梅干しという名前で呼ばれる梅漬けがかわいそうに思う。
せんべい汁
 八戸に来て「せんべい汁」を初めて知った。私が育った盛岡市は南部せんべいで有名だが盛岡には無い食文化である。
 八戸のごませんべいは安い。普通のおやつに食べる。盛岡では南部せんべいが高いので、それに1枚づつ包装されているので贈答用であり、家庭では普段は食べない。よその家庭のことはわからないが、売っている場所・包装から考えるとどう見ても贈答用である。八戸ではスーパーのお菓子売り場に200円程度の袋入りで各社製品が大量に売られているから家庭用である。私の職場でもおやつに食べている。朝食がわりにしている人もいる。私も車で遠出する時の非常食にしている。かじったまま運転できる。
 八戸では「せんべいの耳」がスナックの突き出しに使われている。特に湿った耳がせんべい本体そのものよりも高い。市内のどこのスーパーでも「耳」を売っている
 ごませんべい・せんべいの耳の「せんべい文化」にもうひとつ「せんべい汁」がある。麩(ふ)のように汁の実にして食べるのだ。秋田名物きりたんぽは汁の中で煮過ぎると形が崩れて汁が濁ってしまう。せんべい汁は崩れず濁らずで食べごたえがある。新幹線八戸開業にあわせてせんべい汁のお土産が売り出された。冷蔵の必要はない。
 味付けは魚の味と鳥肉の味がある。料亭ではアイガモときのこの醤油だしに人参・ごぼう・白滝・ネギが入り、せんべいは大きく3つぐらいに割って入れてある。12枚入りのおつゆ用せんべい(あえて言えば ごま無しのごませんべい)は180円。大家族用である。
いかそうめん
 八戸はイカの水揚げ日本一の港である。(そのわりにイカ塩辛の全国に通用するブランドが無い)
 八戸に引越してきた時、「うまい塩辛が食べられる」と思って来た。しかしなかなか名物にお目にかからない。地元育ちの同僚は「イカ塩辛は買うものではなくて家で作るもの。3種類の味がある。自分の家のかみさんが作る味・自分のおふくろの味・妻の実家の味」ということだった。
 塩辛は赤作り・黒作り・白作りの3種に分けられる。皮がついたままの赤作り、墨が入った黒作り、皮を剥いて作った白作りである。私は肝で和えた、歯に皮が挟まらない白作りが好きである。新鮮なイカを使い、わた(腸)に塩を振って余分な水分を飛ばしてから漬け込んだ自家製塩辛は天下一品である。(でもビールには合わないようだ)
 下北半島にある温泉に泊った時、夕食に楽しみにしていたイカ刺しが出て来なかった。(大間の近くだったがマグロも出でこない)「なぜ?」と思ったが、漁港の近くで育った同僚が言っていたことを思い出した。…「イカは朝飯のおかずだ」
 翌日の朝ご飯に新鮮なイカそうめんが付いていた。細切りにして麺つゆに生姜で食べる。「イカには生姜」「まぐろにはワサビ」、たしか「かつおにはカラシ」であったはず。新幹線開業にあわせてイカそうめんを名物にしようと関係者は取り組んでいる。

 大きなイカを開き薄塩にして一夜干しにした「あぶったイカ」もうまい。花見時の弘前城内でも売っている。日本海の鯵ヶ沢では国道沿いにイカ焼きの店が並んでおり、焼き立てを切ってパックに入れマヨネーズをかけて250円であった。夏泊半島大島の浜辺の売店では薪ストーブの上で焼いている。大きなイカステーキは、ダイナミックに切って大きなパックに入れマヨネーズをたっぷりとかけて500円。「ご飯無しのイカだけ弁当」であった。
長 芋
 りんご・にんにくと並ぶ青森県の特産品である。とろろご飯・まぐろの山かけ・とろろそば・千切り・漬物などいろいろな食べ方がある。昔から精力剤として親しまれてきた自然食品である。
 そばの項目でも詳しく触れたが、とろろそばがうまい。とろろと卵が抜群に合い、タレで薄めるとお酒そっちのけでそばが進む。細く千切りにした長芋に卵をかけてもみ海苔をちらし、醤油で食べる「山千」は健康を食べていると思ってしまう。
 長芋は長持ちするからいつも冷蔵庫野菜室に切りかけが眠っている。切り口が茶色になっても2oも切れば真っ白な面がでてくる。
 八戸市陸奥湊の朝市で何度か「自然薯」を見つけた。天然品なので「買おう」と思って行っても無いほうが多い。長いまま掘るのはたいへんな苦労をするものと思う。自然薯はすり鉢でだし汁で丁寧に伸ばしてご飯にかける。卸し金で普通におろすと固くて団子のようになってしまい、箸でなかなか取り除くことができない。だしつゆで薄めても、薄めても粘りを保っている。だから自然薯がダシの味と渾然となり、炊きたてご飯にかけると幸せになる。塩ウニやイカ塩辛が食卓にあると、どれをご飯に乗せようかと熟慮を重ねなければならない。

 長芋5センチぐらいを卸し金でおろし、すり鉢でよくすって、卵3個を加えて混ぜる。これを濃縮だしつゆで味付けして大きな卵焼きにする。長芋入りの濃厚な卵焼きができあがる。これは私のオリジナルである。

八戸のおいしいもの