O.番外編 

 私は立ち食いそばが好きである。
 立ち食いそばは安いから好きである。普段はかき揚げを上にのせるが、立ち食いそばでうまいかき揚げを食べさせてくれる店は極めて少ない。驚くほど少ない。ネギもぶつ切りだ。
 カラリと上がったかき揚げではなく、じっとりとしていて中身が貧弱で、下手なてんぷらの見本のようなものを平気で出す店が何と多いことか。玉ねぎとほんの少しの野菜(三つ葉・春菊など)と業務用の乾燥桜海老で、衣部分がはるかに多い。だからうまいかき揚げを食べるためには自分で作るしかない。

 自炊の場合、てんぷらは自分で作らないほうがよい。大きな油鍋とたっぷりの油がないと、てんぷらは上手に揚がらない。小さな鍋でてんぷらを揚げてはいけない。ガスの炎が鍋にはいる恐れがある。
 また油は、はねるものであり、鍋の回りの壁などが油の微粒子で汚れてしまう。使用後のキッチン回りの手入れが大変であり、さらに使った油は、覚ましてから油こしで小さな焦げなどをこしておかなければならない。油を保管する容器も必要となり、油鍋を洗わなければならない。
 つまり一定の分量がまとまらないと、コスト・フォーマンスと手間が非効率である。
 だが何かの機会のために、簡単な作り方を書いておく。

62.かき揚げ

 材料は魚介類のうち1つか2つを組み合わせる。むきえび・桜えび・小柱・しらす・あさり・いか。
 ベースは玉ねぎで、緑の野菜は根三つ葉か糸三つ葉、春菊、せり、彩りとして人参である。むきえび+三つ葉が高級品で、玉ねぎ+桜えび+少しの春菊+人参が普通の立ち食いそばのかき揚げである。長ねぎは油の温度で焦げてしまい黒くなるから、やめたほうがいい。
 粉は市販のてんぷら粉が無難である。小麦粉と、溶き卵、水で本格的に作っていいが、油鍋が小さいとカラリと揚らない。
 粉が少なく水分が多い(衣が薄い)と、具がバラけてしまい、衣が濃いと、もったりとして重いかき揚げになる。衣を作り、材料を入れて手早くかき混ぜ、穴あきのお玉にネタをすくい、余分な衣を落として、たっぷりの油鍋に静かに入れる。
 ざっと固まったなら、静かにひっくり返す。衣が重力で下に落ちようとして、上が具だけになるので、これを防ぐためにひっくり返して、全体が均一になるようにする。
 表裏ともに十分に火がとおり、水分がなくなってから揚げ箸でつかんで上下に振り、しっかりと油を切る。キッチンペーパーを敷いた皿かバットの上に並べる。
 天かすはこまめにすくって、たぬきそばの具につかう。天かすはそのまま醤油をかけて食べるのもうまいし、味噌汁に入れてもよい。お好み焼きにも重宝する。
 かき揚げはラップして冷凍保存できる。食べるときは、そばの丼にかき揚げだけを入れて電子レンジで加熱した後、そばつゆを入れる。揚げたてとまではいかないが、立ち食いそば程度のものはできる。

 海老天とかき揚げと、どっちの天かすが旨いのだろうか。新潟産のコシヒカリと秋田産あきたこまちと、宮城・岩手のひとめぼれの、どのイナゴの佃煮が旨いのだろうか。

63.てんぷら

 他のてんぷらの材料を参考までに書いておく。いか・えび・キス・めごちなどの小さめの魚、あなご・たこ・カキ・ほたて。
 野菜は人参・ごぼう・茄子・春菊・ししとう・おくら・大葉・玉ねぎ・カボチャ・薩摩芋・れんこん・アスパラガス・山うど・たらの芽・椎茸・舞茸・ふきのとう・三つ葉・ピーマン・紅しょうがスライス・青唐辛子・海苔
 他には竹輪・納豆・豚肉スライス。

 私の長男は海苔のてんぷらが好物であり、次男と三男は豚肉のてんぷらが大好きだ。海苔・豚肉・竹輪・きんぴら(ごぼう・人参)・茄子・ピーマンなど、有り合わせの材料で5〜6品できる。 たらの芽のてんぷらは山菜てんぷらの王者である。旬以外にはアスパラガスか、うどの先端の芽のてんぷらがお勧めである。年中出回っており、たらの芽のてんぷらに一番近い味がする。
 私の好物は、夏の青唐辛子のてんぷらである。うんと辛い。しかし後を引くのだ。焼けるような辛さを、ビールでごまかしてしまう。死ぬほど辛いが、不思議にまた試してみたくなる。
 冬は「みの干し南蛮」のてんぷらである。「みの干し南蛮」とは盛岡の名産で、しその葉の塩漬けに、人参と唐辛子を一緒に巻いた冬場の漬物である。そのまま食べるのだが、てんぷらにすると極めて美味であり、酒の肴になる。
 青唐辛子やししとう・おくらを揚げるときには、衣をつける前にフォークなどで突き刺して穴を開けておかないと油鍋の中で内部の空気が膨張して爆発する。危険なので必ず穴を開けること。

64.串かつ

 肉はバラブロックがよいが、脂身が少ないものを使う。
 玉ねぎは四つ割りにして、後は2センチぐらいの厚みにカットして、竹串に肉と交互に刺していく。指に刺さらないように串の向きを考えるて作業する。玉ねぎ・肉・玉ねぎ・肉の順に刺していき、一口目が肉になるようにする。本当は順番などどうでもいいことだが、串かつと言う名のとおり最初はたまねぎではなく、かつにしたい。
 串刺ししたら、塩・胡椒を振り、小麦粉をつけて、溶き卵を潜らせてパン粉をつける。
 パン粉はシール容器にたっぷりと入れて、たっぷりと使う。保存できるので大きめの容器にあけておく方法が使いやすい。揚げ油は少なすぎては温度差が出てくるので、一定量は準備しなければならない。
 豚肉だけではなく、串揚げパーティーも楽しい。串カツのように串に刺して、フライにして大皿に盛りつける。
 材料は豚肉・ほたて・いか・ししゃも・わかさぎ・ウィンナソーセージ・うずらのゆで卵・海老・玉ねぎ・アスパラガス・椎茸・じゃがいも。
 つけるソースはとんかつソース・タルタルソース・マヨネーズで、きゅうりやにんじん、セロリ、キャベツなどの野菜スティックを添える。

65.鳥唐揚

 油で揚げる料理で若い人に人気があるものは、鳥肉唐揚と春巻である。
 鳥肉唐揚は、市販の唐揚粉をまぶすのがてっとりばやいが、中華風もビールやご飯に合う。

 中華風の作り方
 鳥もも肉は大きさを揃えて、卵より小さめのサイズに切り揃える。大きいと中に火が通りにくい。
 玉ねぎをすり下ろし、酒と醤油をミックスしたつけ汁に混ぜる。その中に鳥肉を30分程度つけ込んでおき、ざるにあけてつけ汁を切り、片栗粉をまぶして油で揚げる。
 ウィングスティック(手羽元)も同じように作るが、ウィングスティックの場合は中心部に火が通りにくいので、縦に3本切れ目を入れて、中まで揚がるようにする。
 最近はオーブントースターで調理できる、手羽先の唐揚半製品も市販されており、これなら油を使わないで料理ができ、かつ、早くてうまい。

66.コロッケ

 基本はじゃがいもを茹でてつぶし、挽き肉や野菜を入れて形を整えて、小麦粉・溶き卵をつけてパン粉をまぶして、油で揚げるという手順である。 非常に手間がかかり、形を整えてパン粉をまぶす作業が難しい。
 こればっかりは冷凍コロッケを揚げるのがベストである。牛肉コロッケ、野菜コロッケやカレーコロッケなど種類もあり、価格も手頃でエコノミーであり有難い。
 油の温度が低いとバラけてしまうので注意する。途中でひっくり返して、色が均一になるようにする。
 ポテトコロッケ以外に、小麦粉・バター・牛乳で作るベシャメルソースをベースにしたクリームコロッケがうまいが、柔らかなソースを丸めてパン粉をつけるのは難しく、素人には手に負えない。せいぜいスプーンですくってパン粉の中を転がすぐらいしかできない。これも冷凍食品や海老クリームコロッケを利用する方がよい。

67.エビフライ

 頭を切り落としてあるブラックタイガーを使用する。解凍して殻をむく。
足の部分からむくと簡単であるが、 しっぽを取らないようにする。
しっぽの先には水が入っており、揚げると跳ねるので、はさみで先端部分を切り落とし、ナイフで水を出すようにしっぽをしごく。
 背の中央に横からナイフを入れ、下からすくいあげるようにして、背わたを取り除く。ブラックタイガーの背わたは、どういう訳かきれいなものが多い。
 殻をむき背わたを取り除いたなら、えびをまっすぐに延ばす。その方法は腹部分に2〜3本切れ目を入れ、両手の指で横腹をつかみ、押し潰して、筋をまっすぐになるように加工する。
 小麦粉をつけ、溶き卵をくぐらせパン粉をつけて揚げる。タルタルソースを添える。

 

68.カレーライス

 初めて料理をする人は、カレーライスに挑戦することが多い。たっぷりと食べられ、出来・不出来の別が分かりにくいこと、作り直しがきくことがカレーのメリットである。ということで、カレーは誰でも作れると思い書かなかった。しかしカレーがないとつまらないので、バリエーションを主体に、今までの経験を書く。
 カレーはインド料理となっており、カレー粉なるスパイスは、種々のスパイスのミックスであり、カレー粉の色はターメリック(うこん)の色であることは、ご存知のとおりである。インド人が日本のカレーを食べて「うまい。なんという料理か」と言ったと、かつて読んだ記憶がある。日本料理と思ったほうがいい。  日本には英国から入ってきた。インド直送ではなかったので形が変ったのだろう。原型は英国の「キャリー&ライス」である。 カレー用なる角切りは、味がしみ込まないのでお薦めしない。生半可な煮込み方では中までは柔らかくならない。堅い肉のカレーは旨くない。
 レストランで1000円近いカレーを頼み、出てきたのが業務用缶詰を温めたものだったのでがっかりしたことがある。香りがないのだ。せめて香りをつける工夫ぐらいしてほしい。
 これがゴルフ場だとサラダなどが付いてきており、缶詰でも文句は言わない。理由はレストランではなく、天候しだいで客足がばらつくからである。
 というわけで豚バラブロックかスライスが使いやすく食べやすい。豚バラブロックの場合は、5ミリぐらいの厚みに切る。スライスは5センチぐらいの長さに切りそろえる。
 最もオーソドックスなカレーの材料は、玉ねぎと人参と豚肉であり、じゃがいもは入れずに、これだけでつくってみる。
 レシピはカレールウの箱を参照。
 玉ねぎは頭部と根の部分を切り取り、皮を剥き半分に割り、端から3ミリぐらいの幅で切る。ナイフの刃を立てて手前に引き切りすると、切った後の形が崩れないので、涙が出ない。
 人参は皮のままよく洗い、ヘタを切り落として半分に縦に割り、5ミリ〜1センチぐらいに切りそろえる。皮も食べてしまうのだ。食べられるものは捨てない。また人参はナイフで大きめにカットして、煮崩れしないように面取りをしてもよい。その場合、面取りした切れ端は、まとめてナイフで細かく刻んで、鍋に入れてしまう。
 深鍋にサラダオイルを底に行き渡るように入れて中火にかけ、玉ねぎスライスを入れて竹べら(私は百円セールの竹製の長いへらを使っている。長くて使いやすい)で焦げつかないようにかき混ぜる。最低5分はこの作業をやる。火を弱くして、10分は炒めてほしい。
 玉ねぎがフニャフニャになり、きつね色になったら豚バラスライスを入れて、カレー粉を少量肉に振って肉を玉ねぎと一緒に炒める。
 あればシナモン・ナツメグ・クローブなどのスパイスを振りかけると、香り豊かなカレーができる。この後、人参を入れてカレールウの分量の水を入れて煮立て、沸騰したらしゃくしでアクを丁寧にすくう。どれがアクでどれがスパイスか分からなくなるが、強火で煮たててアクをすくう。
 その後ふたをして、コンソメスープの素を入れて、弱火で10分ほどスープ全体を煮込む。そしてカレールウを入れて良く溶かし、火をうんと弱くして、さらに5分ほど煮たらでき上り。  玉ねぎや人参・肉の量は、カレールウの箱に書いてある説明書を参考にして決める。カレールウは各社からたくさんの種類が発売されているので、片っ端から自分の口に合うものを探して、トライしてみる。
 経験ではやはり高価な物は、さすがにそれだけの価値がある。一人暮らしでは外食と比べて、ルウの値段は決して高くないので、高級品を試して見るべし。普通のルウは旨くないのかというとそうではない。分量のとおり作ると、ちゃんとうまいものができる。
 しかしそこを工夫して、手を加えるところにおもしろさがある。私は普段バーモントカレーとゴールデンカレーを、ミックスして使っている。バーモントカレーは柔らかく滑らかであり、ゴールデンカレーはスパイシーでボリュームがあるので、両方同時に使うと、バーモントカレーのサラサラした点とゴールデンカレーのもったりした点を、見事にカバーしてくれる。
 何よりもこの2銘柄は、バーゲンセールに出てくる頻度が多いのである。
 缶詰のカレーやレトルトカレーの欠点は、香りがないことである。自作で香り高いカレーにするために、肉をカレー粉で炒める。 最初に書いたオーソドックスなカレーに手を加えたカレーを作ってみる。
 材料はにんにくとセロリが加わり、ケチャップを隠し味に入れる。にんにくを薄いスライスにして、玉ねぎと一緒に炒める。肉を入れてカレー粉を振りかけて、玉ねぎ・にんにくを炒め、水を分量のとおり入れてローリエ(月桂樹の葉)と、セロリの葉の部分を細かく刻んだ物を入れて煮込む。

 カレールウを入れて溶かした後に、ケチャップを少量たらし、ふたをして弱火で煮込み、火を止めて冷めたころにまた弱火で火をつけて、じっくりと煮込む。香りの高いカレーができあがる。 バターを入れたり、ケチャップを加えたり、隠し味に醤油をたらしたり、ウスターソースで甘くしたり、やることはたくさんある。火は、つけっぱなしではガスがもったいないので、沸騰したら止めて、温度が下がったらまた火をつけると、煮崩れも少なく、経済的である。
 カレーの肉は、豚肉・牛肉・鳥肉のほかに、茄子とセットで挽き肉、えび・あさり・ほたてなどのシーフードがある。えびやいかを使う場合には、煮過ぎると固くなるので、ルウを作ってから食べる直前に入れる。
 挽き肉と茄子の場合、玉ねぎと人参だけでカレーを作り、一旦火を止める。フライパンに、縦に八つ割りした茄子と挽き肉を入れて、たっぷりの油で炒め、火が通ったならカレーの鍋に移し、軽くかき混ぜて弱火で5分ぐらい味をしみ込ませて仕上げる。
 じっくりと煮込むカレーでは、じゃが芋は煮崩れするから、入れるタイミングを工夫する。たっぷりと作り冷凍保存する場合には、じゃが芋は煮溶けてしまうので、入れない方がよい。じゃが芋を入れる場合は、むしろゆでたじゃが芋をそのまま皿に添えるのも面白い。
 カレーはどうしても作り過ぎてしまう。毎食カレーばかりでは飽きてしまうので、半分ぐらいは最初から冷凍保存する。
 セロリの葉は少しのくせがあるが、貴重な生野菜である。茎を主体に食べるので、葉の部分はどうしても余ってしまう。カレーやシチューを作るときに、香りの野菜として使用する。長いままだと食べにくいので、細かく刻んで原形を無くし、溶け込ませてしまう。
 カレーライスをお替わりできるのは、自作の権利である。ご飯だけ残ったならカレーをたっぷりかけて食べよう。外食のときのように、ご飯だけが残らないように、またご飯が足りなくならないように、気をつかわないで安心して食べることができる。

 横須賀の海上自衛隊カレーの話を新聞などで見かける。横須賀はカレーの町で売り出していると報道されている。海上自衛隊では金曜日の昼食がカレーだという。単調な海上勤務のおり曜日がわかるそうだ。

 長男は海上自衛隊に友人がいる。カレーを食べるイベントにはがきを出し、食べに行って来たそうだ。かなりの味だったとほめる。私も気になる。
 ダ・カーポという雑誌に海上自衛隊カレーをうまくしている材料が載ったことがあった。桃の缶詰のシロップ、福神漬けのつゆ、赤ワイン、インスタントコーヒー…  長男の友達が横須賀から青森県むつ湾の大湊基地へ転勤になった。自作パソコンの部品を譲ってもらうため八戸の我が家に寄ってもらった時、「海上自衛隊のカレーは旨いそうだね」と聞いた。「そんなことはないですよ」と答えが返ってきた。
 後で長男にその話をしたら「彼はアジャンタのカレーを食べに市谷まで行っている」と訳を解説してくれた。有名な専門店と比べての話であった。
 三男の友達(小学生)が「お父さんの料理を食べたい」と言っていると伝わってきた。
 前年の初夏に森の中のキャンプに連れて行き、小学校の国語の教科書に出てきた「ソーミンチャンプルー」を作ったことがあり、私の料理が気にいっているそうだ。キャンプでの朝食に自分たちでホットケーキを焼かせた。
 カレーも食べさせたい。スパゲティも、ハンバーグも、オムライスも食べさせたい。あれもこれも食べさせたい…。
 招待して作った料理は「トルコライス」
 この料理なら迷うことはない。トルコの米料理「ピラフ」がはいっているからこのネーミングになったと言う。
 ドライカレー(冷凍食品が簡単)とスパゲティのナポリタンが皿にのり、上にとんかつがのっている長崎オリジナルの豪華料理である。しかし長崎育ちの妻は知らないと言う。私は市谷の食堂で食べたことがある。
 興味のある人はインターネットで探してみるといい。出す店は少ない。