肉料理

 四字熟語の□肉□食、若い人は焼き肉が大好きである。焼肉定食は定番でボリューム十分であり、おなかがすくと思い出す人も多いと思う。牛・豚・鳥・羊。 

29.豚肉生姜焼き

 材料は豚肉スライスと根生姜と醤油。すこぶる簡単に調理できて、こんなにおいしくて、ご飯のおかずにぴったりの物は少ない。 肉は豚肉のロースか、もも肉の焼き肉用スライスで、スーパーでパックに入って売っているし、肉屋でも焼肉用スライスと書いて売っている。
 バラ肉スライスの脂身の少ない部分や、細切れでも味は変わらない。要は豚肉スライスがあればよく、生姜はひとかけらを皮をむいてすりおろしておく。
 フライパンにサラダオイルを少しだけたらし、火にかける。豚肉に脂身(ラード)がたくさんあるときは、切り取ってフライパンに入れて、菜箸(料理利用の長い箸)でつまんで、フライパンの上を脂が溶けるように動かす。フライパンが熱くなり、脂が溶けたなら肉を1枚1枚丁寧にフライパンに広げる。
 大量に作るのではないから、重ならないように気をつけ、中火にして肉全体に火がとおるように焼く。

 箸でゴチャゴチャかき回すと、肉の形が崩れて火がとおらない部分が出てくるので、広げたまま料理し、片側が焼けたなら裏側を焼く。両面に火がとおり、焦げ目がついてから、用意しておいた「おろし生姜」を入れ、醤油と少量の味醂(なくてもよい)を入れて、手早く混ぜ合わせて火を止める。
 醤油を入れてから後に焼き過ぎると、フライパンの後始末が大変なので、すぐに火を止める。
 つけ合わせはキャベツの千切りが合う。切るのが面倒な人はレタスを手でちぎる。サラダ菜であれば肉を巻いて食べられる。

 豚肉の生姜焼きが有名であるが、肉料理の店には牛肉の生姜焼きもメニューにある。豚肉の生姜焼きを注文したつもりで、牛肉の生姜焼きを食べて、支払いの時にあわてないように(値段がだいぶ違うから)、注文する時にはよく注意しよう。牛肉の生姜焼きも、自分で作れば経済的なのでお試し下さい。

 生姜はチューブ入りのおろし生姜もあるが、なまの物とは香りが違うので、なまの生姜を用意してすりおろす。生姜は冷奴、もつ煮込み、薩摩揚げの薬味、一夜漬けなど、他にも使う機会が多いので用意しておく。案外いたみやすいので、必要な部分のみ皮をむいて使い、残った物は濡らした新聞紙にくるんで常温(冷蔵庫にいれない。普通に暮らしている部屋の温度)で保管する。生姜は冷蔵庫が苦手なのだ。
 空き瓶にニンニクの皮をはいで入れ、醤油につけて「ニンニク醤油漬け」を作っておく。生姜焼きの仕上げにこの醤油を使うと最高だ。

30.肉豆腐と肉じゃが

 私がよく行く「酒の店」のメニューには、肉豆腐と肉じゃがの2つがある。いまだ区別がつかない。肉豆腐を注文すると、豆腐が多い目に入っているが、じゃが芋も入っている。肉じゃがを注文しても、じゃが芋だけでなく、やはり豆腐も入っている。
 仲間と出した結論は、「大きな鍋にまとめて作り、注文に応じて盛りつけるときに、豆腐やじゃが芋の量で変えている」ということだった。味の区別はつかないが、量がたっぷりであり、うまいので文句は言わない。
 肉豆腐用の肉は、豚バラ肉(三枚肉)を使う。牛肉でも構わない。鍋に少量の水を入れて火にかけ、玉ねぎの厚めスライスを入れる。砂糖と醤油と酒を入れて、沸騰したら大きめに切った肉を加えて、中火で5分ぐらい煮込む。好みで糸こんにゃくを入れる。
 牛丼と同じように肉+砂糖+醤油で、基本的には「すき焼き」の味である。後で豆腐が入り水分が出てくるので、味は濃い目にする。味がすっかりついてから火を弱めて、大きめに切った豆腐を入れて、ごく弱火で15分ほど豆腐に味をしみこませ、火をとめる。
 豆腐は煮立てると中にスが入るので、煮立てないように加熱する。豆腐はダイナミックに大きく切る。どうせ煮ているうちに箸で形を崩してしまう。煮込み料理の味は、鍋の中で温度の上昇と下降をくりかえしているうちに、材料にしみこんでいくように思う。カレーは作ったその日よりも、翌日の味がよいといつも感じる。
 肉じゃがの場合は、豆腐をじゃが芋に替える。芋は皮をむき四半分に割り、さらに2cmぐらいに切って、鍋に入れる。芋を切るときは、ざっと水洗いして皮をむいて、どうしても土がつくので、もう一度水で洗い流す。
 凸凹部分や芽の部分があって、皮がむきにくいときには、先にカットしてから、芽などの部分の皮をむくとやりやすい。大きく凹んだ部分は、ナイフ手元の刃の部分で切り取る。芋は煮すぎると(特に丸い形の男爵芋)煮崩れてしまうので、火は早めに止める。芋が固ければまた弱火で煮る。
 牛肉を使う場合には、アクを丁寧にとる。牛肉を強火で煮ると表面が泡立ち、鍋の中央に泡のつぶれたもの(アクという)が集まるので、スプーンかお玉ですくって捨てる。アクがでなくなってから豆腐や芋を加える。アクの主成分は蓚酸なそうである。味が悪くなる。(ステーキの場合はアクも食べることになる)牛肉は煮込むので、高い肉は使うのがもったいない。

31.豚汁

 豚汁というのも定義がなくて、いい加減な料理である。とんかつ屋さんの定食につく肉の入った味噌汁も豚汁であり、実がたくさん入っている、おかずのようなものも豚汁である。ここではおつゆでもあり、ご飯のおかずにもなり、ついでに酒の肴にもなる、実だくさんのものを作る。
 材料は豚肉の細切れ、または別の料理の残りものを小さめに切った肉を使う。
 野菜は大根・人参・ごぼうなどの冬の野菜が似合う。あとは油揚げと薩摩揚げ・こんにゃくで、薬味はねぎのみじん切り。

 下ごしらえは大根と人参の短冊切り。大根は4cmぐらいの輪切りにしてから皮をむき、3oぐらいの厚さに板状にスライスして、さらに1cmぐらいの幅に切り分ける。縦4cm・横1cm・厚さ3oぐらいの板状になる。人参も同様に切るが、よく洗えば皮も食べられる。面倒であれば輪切りスライスでもいい。薩摩揚げは1cmぐらいの幅に切る。油揚げは好みで、大きくても小さくてもよい。こんにゃくはスプーンで、端からちぎるようにして切り分ける。
 鍋に水を入れ火にかけて、大根と人参を入れて沸騰してから、肉・薩摩揚げ・油揚げ・こんにゃくを入れる。茸があれば田舎風になる。肉と薩摩揚げからだしが出るので、味はそんなに気にしなくてもよく、材料が煮えてから、弱火にして味噌を溶かす。すこしづつ味噌を足していく。しょっぱければ湯で割る。火を止める直前に、きざみねぎをたくさん入れる。丼に、中身が汁からはみ出るようにたっぷりと盛る。七味唐辛子がよく合う。

 おにぎりには汁たっぷりの豚汁がよく、ご飯のおかずには、皿に盛るような、薩摩揚げや油揚げの煮込みのような、中身たっぷりのものがおもしろい。茸や里芋をたっぷり入れて丼に盛れば、茶碗酒がほしくなる。

32.おろし焼肉

 牛肉はすき焼きとしゃぶしゃぶが日本料理を代表する。どちらもテーブルにコンロがないと料理できない。と言うよりは料理とは言いにくい。材料を客の前に置き、食べる人が自分で味をつけ煮焼きをする。下ごしらえは別として、料理人の味つけや火加減は必要なく、食べる人が自分で火をとおして食べるわけだが、特に資格や知識は必要としないのである。
 専門家が料理して皿に盛りつけ、腕自慢のソースをかけて客に提供するフランス料理や中華料理と比較して、火加減や味加減は客に任せてしまうという実に思い切った提供方法である。材料と調味料を盛りつけてあるだけである。
 4人ですき焼き鍋を囲むと、そのうちの誰かが作らなければならない。家族なら同じ味なので問題はないが、別々に育った他人が食卓を囲むと、誰かが文句を言うか、誰かが言いたい文句を我慢することとなる。
 最初に肉を入れる。その後にタレが先か野菜が先か。砂糖と割り下を入れる順番は? 
 甘い・しょっぱい・このままでいい・肉が焼き過ぎ・たれが足りないとか多いとか、野菜は最後に入れろ水が出るとか、白滝が焦げている・春菊が煮えていない・肉が固いなど。
 特にうるさい上役といるときなど、作っている人の気の使い方は大変である。他の料理では出されることのない焦げ過ぎなどを、誰かが処分しなければならない。
 私は料理はするが鍋奉行はしなかった。誰かが作ったものをおとなしく食べていた。
 良い牛肉は料理が単純なほどうまい。しゃぶしゃぶしかり。
 おろし焼肉は薄切り牛肉をフライパンであっさりと焼く。焼き過ぎないように、一度にたくさんフライパンに入れないようにする。生姜焼きと同じように、肉が重ならないようにすればいい。 大根おろしを用意しておき、焼きたてをおろし醤油で食べる。つけ合わせはサラダ菜がやさしくて合う。

 ついでに牛肉のサラダ
 牛肉の切り落としが安くてうまい。生のまま大皿に盛りつけるわけではないので、切り落としで十分。
 鍋に固形スープの素と水を入れて沸騰させる。スープの素は規定分量より水を多くする。沸騰したら牛肉を少しずつ箸で入れ、軽くゆでる。アクをお玉で丁寧にすくいながら、グラグラ煮込まず、しゃぶしゃぶの要領でゆでる。色が変わり、肉に火がとおればそれでいい。すぐに皿にあける。
 皿の水を切って、レタスやサラダ菜を広げた皿に移し替える。マヨネーズをかけて醤油をかけ、野菜と一緒に食べる。

 肉をゆでた後のスープは、わかめスープに仕上げる。塩・胡椒を入れて味をつけ、乾燥わかめ(カットわかめ)を少量入れて、ねぎの小口切りを浮かべる。好みで少し醤油を加える。

  盛岡の近郊に小岩井農場がある。高校生のころにジンギスカン鍋を食べたときのタレの味が忘れられない。
 家で焼肉をする時に、子供たちから「お父さんのタレ」とリクエストが来る。市販のタレも置いてあるのに。
 自作では少しだけ作ることができる。市販品の小さいビン入りのタレを買って、いつも同じ味で食べるのは飽きる。第一冷蔵庫ふさぎの犯人である。自作は必要な分量だけ作れるのと、味を家族の好みに合わせて調合できる。大根やりんごのすり卸が入ってもおもしろい。

  アパート暮らしの次男から「焼肉のタレを教えてほしい」と電話があった。その後のメールである。

昨日私の部屋でなべを囲んで。
月曜日に召集をかけ、「集合!」
私はご飯と豆腐とお茶、(そして念のためうどん)
残りの3人は肉と野菜、持ち寄りですき焼き。スーパー閉店前に押しかけて半額の牛肉を買い占める。 

買出しに行く前に、私「肉ってどのぐらい要る?一人200もあれば足りるか?」
友人「学生をなめるな」 どうやら足りないらしい。ご飯も野菜もあるっつーのに。

鍋の表面を肉で埋め尽くして友人は感無量。ちょうどテレビでやってた ゆずぽんのCMを観て「俺らのほうが豪華」その後汚れた食器を残したまま、余った肉(およそ300)を残したまま、今度は卓を囲むわけで。クラスの奴らはお金をかけるのが嫌い。私「ラスの人に皿を洗ってもらうし」さらに余った肉を見て、「これはトップの賞品か?」 と、さりげなく提案。
皆私の術中にはまる。 亀の甲より年の功。

…結局一人あたり千円を割って食べ放題。外で食べたら こんなに安くいかないわけで。そして今冷蔵庫の中に霜降り肉(焼肉用)が鎮座ましましてるわけであります。やっぱり一人200ぐらいでちょうど良いのね。
 まあじゃんのケースにかかれた「書道」はこっちでも好評


1. ジンギスカンのたれ
  たまねぎのおろし   すこし
  根しょうがのおろし  すこし
  す          大匙1
  しょうゆ       大匙2
  すりおろしりんご   すこし
  ねぎのみじん切り   わんづか

2.焼肉のたれ  
  たまねぎのおろし   すこし

  にんにくおろし    すこし
  根しょうがのおろし  すこし
  す          大匙1
  しょうゆ       大匙2
  すりおろしりんご   すこし
  一味唐辛子      少量〜大量
  ねぎのみじん切り   わんづか

    実はあんまり変わらない

 我が家が家族全員で暮らしていた頃、休日の食卓後片付けと洗物は時々じゃんけんで決めた。
 その中には当時幼稚園の三男も入っていた。入れたのではなく「ぼくも ぼくも」と入ってきた。割れて困るような皿はない。グラスはビールのおまけだ。 男だけのじゃんけんであり家内は入れない。「休日だからお母さんの後片付けは休みだ」 その当時のことがアパート暮らしの中に生きているらしい。「書道の箱」は高校の頃、先生に一時没収されていたそうだ。

  

33.三色ナムル

 焼肉屋の人気メニューにナムルがある。ほうれん草にモヤシ、ぜんまいの三色ナムルはメニューで高いものだ。簡単に自作できる。もともと韓国の家庭料理であり、日本のお母さんが毎日味噌汁を作るように、韓国のお母さんが作る料理だ。

 モヤシのナムル
 40円ぐらいの短いモヤシでもいいが、長い大豆モヤシを使うと本格的だ。(ただしあごが疲れる)モヤシは水洗いし、半分に切る。
 モヤシをふたが閉まる鍋に入れて、水を300ccぐらい入れ、火にかける。沸騰した湯でゆでるのではなく、水からゆでるのだ。沸騰したら弱火にして5分ぐらい置く。鍋から豆の煮えたいい匂いがしてきたら火を止める。
 モヤシの水をよく切って、ボウルに開ける。
 醤油・ごま油・しろごまをすべて大匙1.5杯計り、ボウルに入れて胡椒を振りかけ、手でよくもむ。好みによりニンニクすりおろしを1辺加える。手でもむのがおにぎりと同じように旨さの秘密だが、手が油でべべとべとになるので、箸でよく混ぜ合わせる。

 ほうれん草ナムル
 ほうれん草1把は水洗いしておく。大き目の鍋に湯を2リットルぐらい沸騰させる。
 ほうれん草を2本ぐらいづつ箸でつかみ、茎の部分を湯に入れて10秒数える。次に葉の部分まで全部入れて15秒数えてすぐに水の入ったボウルに入れる。(水に入れてアクを取る)
 同じように茎と葉が同じようなやわらかさになるように、全部ゆでて水につける。
 ゆで上がった後は根の部分を揃えて水から出し、手でほどほどに絞る。絞りすぎると繊維が崩れ、足りないと水っぽくなる。
 まな板の上に揃えて並べ、4〜5センチの大きさに切る。調味料はモヤシと同じく醤油・ごま油・しろごまをすべて大匙1.5杯であり、好みによりニンニク1辺をすりおろして加え、よくかき混ぜる。

 ぜんまいナムル

 ぜんまいはモヤシやほうれん草より少し面倒だ。ここでは水煮品を使う。ぜんまい水煮はボウルにあけて、水煮の水洗いをする。 長さが一定でないから、一掴みをまな板にのせて2か所ぐらいに包丁を入れる。一本一本やっていたら日が暮れる。
 小さな鍋にぜんまいを入れ、水を100ccぐらいと日本酒大匙3杯を入れ、先ほどと同じ調味料を、醤油の量だけ大匙2杯に増やし一緒に入れて「含め煮」にする。含め煮というのは、味をゆっくりとしみこませながら煮ることであり、弱火で水を蒸発させながら箸で全体に味が染みるように混ぜながら、水分がなくなるまで煮る。時間がかかる。 
 案外簡単にできると思う。特別な材料は何も使っていない。丁寧に混ぜ合わせることである。
 これで3種のナムルが思い切り食べられる。

 白ごまは1袋100円でおつりがくる。ごま油も高いものでしない。手間だけがかかる。ほうれん草を2〜3本づつゆでるようなことはお母さんもしていないと思う。
 この手の料理は手間をかけた分だけおいしくなる。おにぎりと全く同じだ。

 食卓用の味付けしろごまがある。ご飯や味噌汁に直接かけられるようにプラスチックの容器に入っている。
 三男はBB弾のピストルで遊んでいる。アルバムを見るといつもピストルを持って写っている。親がピストルのおもちゃ(あくまでもおもちゃ)が好きで、長男が小さい頃から買い与えていた。親は西部劇に出てくるコルト45ピースメーカーが好きで、子供には「10歳用」のBB弾(ピースメーカーではない)を買い与えた。
 今は勤務その他の関係で親子が離れて暮している。子供が住んでいる家に行ったとき、夕食時に食卓にしろごまの容器があり、「おとうさん ごま おいしいよ」とご飯にふりかけのようにかけて食べていた。
「もう一本あるよ」といいながらテーブルの下からごま容器が出てきた。中身はごまではなくBB弾が一杯入っていた

34.ハヤシライス

 カレーは誰でも作る。「カレーとラーメン」は、男が作る料理の双璧であるから書かない。うまい物を食べて工夫するのみ。
 カレー屋さんには、ご飯の量とカレーの量のバランスが悪い店がある。特に大盛りを注文すればすぐに分かる。大盛りといってもご飯だけが大盛りで、カレーの量がそれに比例していない店もある。
 私が知っている店のカツカレーの大盛りは、かつの上にカレーがかかっていて、ご飯の上のカレーが少なく、出前輸送の間にかつがカレーを吸ってしまい、かつでご飯を食べないと、どの様に工夫してもご飯が残ってしまう。
 カレーの量とご飯の量を計算しながら食べなければならない。初めにご飯だけ食べるのも、最後にご飯だけ食べるのも、最初から最後まで薄目のカレーを食べるのも、どちらもみじめである。 自分で作ればこのような心配はなく、カレーをたっぷりとかけて食べられる。レトルトカレーは、最初は180gであり、私には量が少なかったが、後発会社が200gで発売したこともあり、今は量が増えて210gから220gが標準となった。

 カレーで印象に残っている店が1つある。値段も手頃で、味も香りもよく、量も十分で店内も清潔と、見事にバランスが取れていた。豊島園のカレーハウスである。そう言えば新幹線ビュッフェのカレーライスもコストパフォーマンスに優れている。

 東京駅近くに勤務していた頃、八重洲地下街にカレー専門店が8軒あった。比較して見ると面白い。たまねぎに火が通っていない店があった。巡り合わせが悪かったのだろう。どうやって食べてもご飯が残る(カレーが足りなくなる)店があった。「客の立場で食べたことがあるのか」と店の人に言いたかったが旨かった。早くて安い店には味についての文句はなかった。
 カレー屋さんに限らず、八重洲地下街で昼食を取っていた頃、面白い法則を発見した。
 「遅い」「量が少ない」「高い」と三拍子そろった店は開店してもそのうち閉鎖すると言うことである。
 逆に「早い」「量がいっぱい」「旨い」の店は値段が少々高くても繁盛するということである。
 店に入って客の7割ぐらいが食べていて、3割ぐらいの客が待っている状況が繁盛している。半分以上の客が待っている店は客席と調理場のバランスが取れていなくて、客の足が自然に遠のく。早く昼飯を済ませて、やりたいことはたくさんあるのだ。

 ハヤシライスが復活している。雑誌でも取り上げられるようになってきた。私が30年程前に暮らした京都では、ハイシライスとメニューに書いてあった。ハッシュド・ビーフ・ライスが語源という。
 牛肉の切り落としをじっくりと煮込んで作る。カレー・シチュー用として売っている角切りではなく、薄切りのほうがよい。なにより食べやすい。ハウス食品もSB食品も、ハヤシライスのルウを発売している。ルウの箱のとおり作るわけだが、材料は牛肉+玉ねぎ+アルファであり、アルファはマッシュルーム・しめじ・筍など、口当たりがよく煮崩れしない野菜を使う。別になくても、どうということはない。
 セロリの葉を洗い、小さく切って入れたり、冷蔵庫の野菜を整理するつもりで作る。
 玉ねぎを厚めにスライスして、厚手の鍋で炒める。牛肉を加えてさらに炒め、ハヤシライスのルウの箱に書いてある規定の分量より、少し多い目の水(アクをすくう分量にあたる)を入れて、ローリエ(月桂樹の葉)などのスパイスとともに煮る。セロリの葉があれば、みじん切りにして加える。沸騰したらアクをすくう。アクがでなくなってからルウを入れて、弱火にして鍋に蓋をして煮込む。
 10分ぐらい煮込んだなら火を一旦止めて、また温度が下がってから加熱することを繰りかえしてもよい。焦げつかないように時々かき回す。これはいそいで作る料理ではなく、じっくりと煮込んで作る余裕の料理であるから、あせらないように。
 皿に盛ったご飯の上にかけて、グリーンピースを散したくなるが、缶詰のグリーンピースはうまいものではないので、また、残ったら他に使い道がないので、我慢する。残ったハヤシライスのソースは冷凍保存する。

35.もつ煮込み

 居酒屋の人気メニューである。多少時間はかかるが、うまくてご飯のおかずにもなる。欠点は作っているはじめのほうで、臭うことである。材料は豚か牛の白モツと大根・ねぎ・生姜が必需品であり、ごぼうと人参、ニラがはいれば、味がグンと引き立つ。特にごぼうはぜひほしい。こんにゃくと豆腐は増量材であり、あったら入れる程度のものである。
 白モツを鍋に入れて湯を入れ、沸騰させて5分ほど弱火で煮る。脂が浮いてきたら火を止めて、湯だけ捨てる。ざるを使うとざるに脂がついて、洗うのが面倒なので、穴のあいたお玉でモツだけをすくってもよい。モツを鍋に戻してまた水を入れて沸騰させ、また5分ほど弱火で煮る。このようにして合計3回湯を捨てる。3回目はもったいないが味噌を入れて煮ると臭みと脂が抜ける。もちろん入れなくてもいい。
 次にモツの入った鍋に水を入れて火にかける。生姜のスライスか千切りと、ねぎの葉先、緑の部分をブツ切りにしたものを鍋に入れて、臭い消しにする。
 大根・ごぼう・人参を加え、ニラがあれば短めに切ったものを少量入れる。大根は2cmぐらいの輪切りにしてから皮をむき、サイコロのように角切りにする。
 ごぼうは包丁の背で皮をそいで水洗いし、1cmの厚みの輪切りにして、変色しないように水につけておく。人参は洗って皮のまま輪切りにする。
 野菜に火がとおったなら、弱火にして味噌を加え蓋をして、じっくりと最低1時間ぐらいは煮込む。(例によって火を止めて再加熱してもよい)
 味噌は甘くない赤味噌が合うが、醤油も少し加える。熱いところを深めの器に盛り、ねぎのみじん切りをのせて唐辛子をかけて食べる。残ったら翌日少し水を足して、また煮込む。ますますやわらかく、うまくなる。

36.ビーフシチュー

 輸入牛肉のカレー・シチュー用が安くてたっぷりと使えるので、肉のたくさん入ったビーフシチューを作る。長時間煮込むので、高い肉を使うのはもったいない。市販のルウを使用して簡単にできる料理であり、時間はかかるが手間はかからない。
 材料は牛肉+玉ねぎ+人参が基本で、じゃが芋やブロッコリーを入れてもよい。牛肉はフライパンで、各面に焦げ目をつけるように焼いておく。鍋に箱の分量+アルファの湯を沸かし、焼き目をつけた牛肉を入れて、切った野菜も入れて、蓋をして弱火で煮込む。
 野菜は、玉ねぎは頭部と根元部分を切り落として皮をむき、大きめのブツ切りにする。煮崩れて形がなくなる。人参はよく洗い、皮のままブツ切りにして入れる。面取り(角を取って煮崩れしないように、形を整えること)をしてもよいが、取ったあとの人参の切れ端は、大切な自然の恵みでもあるのでみじん切りにして、鍋の中に入れてしまう。捨ててはいけないのだ。人参の皮はごぼうの皮と違い食べられるので、皮をむく必要はない。
 じゃが芋を入れる場合には、煮崩れしないメイクイン(丸くなく、長いじゃが芋)を使うとよい。皮をむき半分に切り、さらに半分にして適当な大きさに切って入れる。肉はたっぷりと煮込むが、芋は煮込んだら形が崩れるので、鍋に入れるタイミングを遅らせる。
 人参は煮崩れしにくいので、最初から入れてもよい。作る途中、沸騰させてアクをすくい取る。クローブなどのスパイスを入れる場合には、ルウを入れる前に。
 アクが出なくなってから、弱火にしてルウを入れる。溶けるまでゆっくりとかき回し、弱火で煮込む。むしろ翌日食べるぐらいに考え、火を止めたりつけたりして、味をなじませる。ご飯よりフランスパンがほしくなる。 

 三男が小学生だった頃、よくキャンプに行った。八戸の周辺にはオートキャンプ場がたくさんある。陸中海岸国立公園、十和田八幡平国立公園が近く、近場にも公営のキャンプ場がたくさんある。
 料理材料は途中の道の駅や産直広場で季節の素材を探す。キャンプといえばバーベキューコンロに焼肉が定番であり、どこのテントも同じようなメニューで、最後に焼きそばで締めくくる。
 実は炭火コンロの後始末が厄介だ。金網を洗うのがたいへんだ。やることがないから食事の支度をして、後始末をして、食事だけがキャンプの目的な人が多いのではと思う。
 昔は飯盒炊飯だったが、今ではガスコンロで飯を炊く。ガスコンロに飯盒は合わない。コッヘルが安くなったので、鍋でご飯を炊く。
 保温調理器のサーマルクッカーがとても気に入っている。家を出る直前にビーフシチューの材料を鍋で煮て10分加熱し、真空保温ケースに入れて車に積み込む。キャンプ場についた頃にはシチューが出来上がっている。肉はやわらかく、人参やジャガイモは角が全く崩れていない。なにより輸送中に料理がこぼれない。 パエーリャとビーフシチュー、ハムサラダや生野菜、それに途中で仕入れた刺身など、楽しいメニューを作った。
 もちろんいつもビーフシチューばかりではない。蛸や螺貝、ホタテの燻製も作っている。自家製の蛸の燻製や八戸ならではの(イカではなく)つぶ貝の燻製は仲間に評判がいい。ゆで卵の燻製の評価も高い。卵料理の欄でも薦めたかったのだが特殊な(高くはない)スモーカーがいる。