F.汁物

 和食には吸物・生物・焼き物・蒸し物・煮物・和え物・酢の物・揚げ物・香の物と、膳にのせる種類がある。
 ご飯には味噌汁や吸物がほしい。
 

26.吸物・味噌汁

 最も簡単な吸物は、とろろ昆布の吸物である。鍋すら使わない。材料はとろろ昆布+削り鰹節+ねぎである。鰹だしと昆布だしの両方がちゃんと入っており、ついでに鰹と昆布の具も入っていて、香りもよい。
 お椀にとろろ昆布一掴みと削り鰹節半パックを入れて、醤油をかけてかき回す。その中に熱湯をそそぎ、最後に薬味としてねぎのみじん切りを浮かべる。蒲鉾があれば薄切りにして入れてもよい。醤油と湯の量は自分の舌で加減する。おにぎりや弁当によく合う。
 吸物は日本のコンソメだと思う。良いだしをとり、季節の魚介類と香りの野菜を入れる。魚介類はここでは本格的な魚や貝ではなく、例によって保存・加工食品を利用する。蒲鉾・カニ蒲鉾・竹輪、野菜は筍(たけのこ)・わかめ・しめじなどの茸、薬味はねぎ・みょうが・かいわれ大根・三つ葉・芹・大葉、後は豆腐・麸・湯葉など。
 だしは鰹節からとるのが本格的だが、この場合は鰹節の粉末や顆粒を使用する。いわゆる和風だしの素である。
 鍋に湯をわかして、規定の分量の和風だしの素を入れ、少量の醤油と塩で味をつけ、カニ蒲鉾などの具を入れて火をとおし、わかめなどの野菜をあっさりと煮て、三つ葉などの薬味を入れてすぐに火を止める。
 味つけは醤油+塩で、色はほとんどつけない。だからミネラルいっぱいの塩がいる。はまぐりやあさり、帆立貝など、季節の生物があれば言うことなし。

 味噌汁もインスタントや粉末が各種ある。味噌汁自体が保存食品を使った即席食品であるから、わざわざインスタント味噌汁を家庭で使用する必要はない。
 味噌自体は長い時間をかけて作られているが味噌汁はすぐにできるのだ。具に火がとおる時間だけ必要なので、じゃが芋や豚汁は時間がかかるが、わかめや豆腐の味噌汁はすぐにできあがる。

 良いだし(粉末だし)に具を入れて、具が煮えてから味噌を溶かして、季節の薬味を入れて火を止める。味噌を入れてから煮立てると味が落ちる。味噌は2種類を合わせて使うと味がよいこととなっているが、そこまでしなくても、作りたてはうまい。
 一人暮らしをしていて、合わせ味噌で味噌汁を作っているなどと知れたら、お嫁さんのきてがなくなるかもしれない。それより、だしをたっぷりと使いたい。鰹節を削ってもよい。化学調味料も利用する。
 具は豆腐・油揚げ・わかめ・あさり・しじみ・大根・かぶ・玉ねぎ・ねぎ・キャベツ・じゃが芋・里芋・もやし・なめこ・シメジ・麸。
 変わったところでは薩摩揚げ・豚肉・地場の天然茸、魚(かわはぎ)など。薬味は吸物と同じである。

 だしの素を使用すると書いたが、私のお薦めは煮干しである。だしをとった後も味噌汁に入れておき、ついでに食べてしまう。味噌汁1杯につき4センチぐらいの煮干を1本の割合でちぎって入れる。カルシウムの補給源として大切にする。この場合、煮干し自体はうまい物ではないが、味よりカルシウムを重視して、虫歯を少しでも防ぐことを優先したい。
 歯は生涯2セットしかなく、内1セットは小学校までに使用済みであり、今使用中の歯が最後のセットである。あと何十年使うか考えてほしい。

 味噌汁の中身が物足りないときには、卵を1個割り入れて、弱火で半熟にすると豪華になる。煮すぎると汁が泡立って、見た目も、味も悪くなってしまうので、弱火にして煮立てないように気をつける。特に朝食のときなど、おかずにもなる味噌汁ができる。風邪気味で食欲がないときにも、温かく栄養補給ができる。 

 シジミの味噌汁を朝に作らないでほしいと小学生のころに母に頼んだ記憶がある。「遅刻するから」というのが理由である。大き目のシジミはともかく、小さいシジミの身を食べるのか、食べないのか。実は作家の渡辺淳一氏のエッセイに答えが書いてある。大の男がシジミの中身を食べるのはみっともないと言うことだったと記憶する。では、あなた方が「大の男」でなければ食べていいのだ。大の男とは若い男のことではなく、家庭を構えて、職業がしっかりしていて、ということだろう。仕送りしてもらって生活している分は大の男ではない。

 しかし、デートのときに小さなシジミをちまちま食べると彼女がどう思うかは保障できない。「食べ物を粗末にしない人だ」となるか「細かくてキライ」と思われるか。

 心配しないで食べる方法がある。椀のなかで、箸で貝から身だけを速やかに離してしまうのだ。そして椀の汁をすするときに、身も食べてしまう。箸使いの達人でなければできない。あなたは正しい箸の持ち方ができているだろうか。できなければシジミは外せない。

 正しい箸の持ち方で食べると、周りから見ていて美しい。

27.スープ

 飛行機で朝や夜の便に乗ると、熱いコンソメスープが出てくる。コーヒーや緑茶ではない、思いがけない味に出会うと、とてもおいしく感じる。普段コンソメスープだけを飲む習慣はあまりないと思う。
 レストランのコースメニューでお目にかかるコンソメは、澄んでいて香り高い。自作はできないので、コンソメスープの素を利用する。1個で300ccできる。300ccというのは、ラーメンやうどんの汁の量と同じであり、スープだけの場合は2人用と考えてよい。コンソメスープに中身は特にいらないが、熱くなければならない。このコンソメスープの素は、スパゲティやカレーにも使うので、常備品のひとつである。

 ポタージュスープのインスタントは、1人用には量があるので少なめに作る。お薦めはキャンベルの缶詰スープである。
 アメリカ製の、赤と白のシンプルなデザインの缶詰で、種類も多く、デパートや大手スーパーで手に入りやすく、価格も手頃である。安売りの機会があれば買い込んでおく。
 鍋にあけて空缶1杯分の(中味と同量の)水で薄めて加熱する。国産の料理缶詰のような甘さが全くなく、上品で飽きのこない味である。

 中でもお薦めはトマトスープである。トマトなので嫌いな人もいるが、日本には無い味であり、缶の指示書のとおり作ってから、卵をそっと鍋の中に割り入れて、2〜3分ほど、ごく弱火で黄身が半熟になるように煮込む。トマト味と黄身が混じり合い、とてもうまいスープになる。ご飯ではなくフランスパンが食べたくなる。メンチかつにほうれん草のソテーがあれば、豪華なメニューとなる。
 それにしても日本製の缶詰は、中身の種類にかかわらず、味が同じになってしまい、缶をあける前に味がわかってしまうような気がする。

 ボルシチもメニューに加えたい。なかなか食べる機会がないと思うが、もし機会があれば、しっかりと味と材料を覚えておく。
 ボルシチはロシアのスープである。基本はトマトのスープであり、牛肉とキャベツ・玉ねぎ・人参・じゃが芋で、赤かぶ(ビーツ)から紅色が出てくる。
 スープ用の深めの鍋に湯を沸かし、牛肉と塩を入れて弱火で煮込む。肉はカレー・シチュー用の角切りでも、切り落としでもよく、多くても少なくても構わない。玉ねぎは皮をむいてから大きめに切り、人参は皮のままよく洗って1センチぐらいの輪切りに切り、鍋に入れる。キャベツは芯を取り、大きめにきざみ、芯もきざんで鍋に入れる。完熟トマトがあればヘタの部分を切り取り、8つ切りに割って皮のまま鍋に入れる。トマトの皮は後ではがれて表面に浮いてくるので、箸でつまんで捨てる。
 沸騰したらアクを丁寧にすくい、弱火にしてコンソメスープの素を規定の量に対し半分の分量で入れる。トマトがないときには缶詰の料理用トマトを使う。手に入らないときには、トマトジュースの缶詰を代用に使う。これならどこにでもある。

 ビーフシチューの要領で作り、シチューの素を入れるかわりに、トマトとコンソメスープを入れる。味が足りないのでトマトケチャップと塩を加え、味加減する。
 ビーツがあれば入れるが、なかなか手に入らないので普通のかぶを、ロシア民話「大なかぶ」を思い出しながら入れる。
肉や野菜の量は、多くても少なくても気にしない。ビーフシチューのように濃厚な味よりも、あっさりした味が合う。
 ボルシチというと名前がいかめしいが、野菜スープの一種であり、スパイスのフェンネルを使う。ビーツもフェンネルもなくても、材料も特別な物を使わなくてもできる。たくさん作って温めて食べる。牛肉の煮込み料理は、作り始めてから2日ぐらいからうまくなるように思っている。ライブレッドなど、固いパンがほしくなる。
 作りすぎて余ったなら、カレールウを入れてカレーに化かしてしまう。スープがしっかりしているから、きっとうまいカレーになる。

 私はバラライカを持っている。映画「ドクトルジバゴ」のララのテーマに惹かれたのだ。映画にもバラライカが出てくる。日本中を探してやっと手に入れた宝物である。
 演奏を聞きに駿河台と銀座のレストラン「バラライカ」に行った。神戸の「バラライカ」という店にも行ったことがある。最近仙台市にもあることに気が付いた。バラライカのレコードも何枚も持っている。CDではなくLPレコードである。
 バラライカのレコードを聞くとボルシチが食べたくなる。レストランで味を覚えて本でも研究した。しかし色付けのビーツが手に入らない。缶詰を見つけた時にはすぐに買っておいた。ビーツがないから作れない。蕪で作ったが味は同じでも色が出ない。

 何のことはない。盛岡の朝市で秋から冬の季節にごろごろと、1つ100円で売っていたのだ。「あっ ビーツだ」と喜んで3個買う私を見て売り子のおばさん(生産した人)が
「おとうさん それ何に使うの」と聞く。
「ボルシチの色付けですよ」というと「ボルシチとは何か」と聞く。「ロシア料理で赤いスープですよ」

「蕪漬けの色出しだよ 赤くならないか」と聞く。
 そのまま煮ると真っ赤になる。皮を取り、半分に縦割りして、5ミリぐらいにカットして一旦ゆでて色を落とす。そして冷凍保存している。

 日本橋のレストラン「たいめいけん」のボルシチは名物である。ボルシチだけの注文はできずにエビフライや牡蠣フライ、ポークかつと一緒に、キャベツの酢漬けとボルシチを注文する。びっくりするぐらい安い。ほんとにびっくりする。遠くに離れたので最近の値段はわからない。(13年6月現在も50円であった:但し別な料理といっしょに注文する)
 ここのキャベツの酢漬けは旨い。私が何回も再現しようとしているが目下のところ無理である。私のバラライカは弾かれなくなった。弦が手に入らないのだ。


28.中華風スープ

 最近はふかひれスープや卵スープの素など、各種の中華風スープが家庭用に手頃な価格で市販されている。手軽に味わえ、ありがたい。しかしスープの素をそのまま使うと具が少なく、食べ盛りの人にはものたりない。自炊ではスープに野菜をたっぷりと入れて、栄養補給することを考えたい。
 野菜たっぷりの中華風スープを作ってみる。中身はキャベツ・人参・玉ねぎ・きくらげ・卵。 ラーメンを作る鍋に500ccぐらいの湯を沸かし、千切りにした野菜を入れ、コンソメスープの素を1個入れて煮る。塩・胡椒・少量の醤油を加え、胡麻油を少量たらす。
 自作で簡単に作るスープは、どうしてもスープのベースが足りなくなる。つまり鳥ガラや肉を、じっくりと煮込むわけではないので、味に深みが無いに近い状態である。そこをカバーするためにブイヨンやコンソメの素を使う。分量のとおりだとコンソメスープそのものになってしまう。ベースが分からないように少なく使い、醤油と塩、化学調味料で味を調える。
 化学調味料は敬遠することはない。自分で食べる分に自分で入れる分には、何の心配もないので少量お世話になればよい。むしろ外食のほうが、どんな材料を使っているのか知りようがない。

 牛肉のスープに醤油を加えることは、頭では味が別々だと思うが、すき焼きやしゃぶしゃぶ、牛丼では相性が抜群によい。牛肉のスープストックを、醤油で和風に近づけ、さらに胡麻油をたらすことにより、中華風に変化させる。
 味ができたなら、溶き卵を鍋に少しづつ入れて、強火にしてかき回し、かき玉に仕上げて卵スープにする。
 味が足りないときは醤油をたらし、濃いときには湯で割る。野菜の量を減らしてわかめを入れ、きざみねぎを浮かせてわかめスープにしてもよい。