豆 腐

 豆腐を嫌いな人にお目にかかった経験はない。日本国中どこでも豆腐屋さんだけではなく、スーパーマーケットでもコンビニでも売っている。値段も手頃でかつ安定しており、清潔で栄養十分、料理せずにそのまま包丁無しでも食べられ、夏の冷奴から冬の湯豆腐まで季節独特の料理もあり、おかずにも酒の肴にもなる。世界に誇る伝統的・健康的料理材料であり、完成品でもある。

4.冷奴

 1年中食べられ、しかも飽きの来ない伝統的和食である。豆腐は木綿でも絹ごしでも、お好きなほうでよいが、酒の肴には重みのある木綿のほうが合うと思う。

 手頃な器に取り出し、少し時間を置いてから、出てきた水分を捨て(水を切るという)、季節の薬味をのせて、よい醤油をかけて食べる。切っても切らなくてもいい。

 よい醤油とは新鮮な醤油である。醤油や味噌は変質する。夏休みに冷蔵庫に保存しないまま故郷に帰り、休み明けに戻ってみると、色が黒ずんでいる。使えなくはないが、味が悪くなる。

 薬味は、包丁を使わないものとして、もみ海苔・削り鰹節・チューブ入りのおろし生姜・梅干しがあり、包丁を使うときざみねぎ・おろし生姜・かいわれ大根・みょうが・大葉がある。

 かいわれ大根や大葉をたっぷりかけて、ゴマ油をたらし、醤油をかけると中華風冷奴になり、気分が変わる。 

5.湯豆腐

 若い人は年中アイスクリームを食べている。でも冬の寒い時には湯豆腐が恋しくなる。

 土鍋にだし昆布を敷き、切った豆腐や塩タラを入れた本各派もいいが、ここではインスタントラーメン用の小鍋で作る居酒屋風を紹介する。

 小鍋に湯を沸かし、弱火にして豆腐を丸ごと入れて温める。強い火で沸騰させると、豆腐の水分が蒸気となって、中に空洞ができて(豆腐にが入るという)舌触りが悪くなり、まずくなるので注意する。

 鍋のままテーブルに出して、薬味の小鉢を別に準備する。そうすると洗い物が増えるので、豆腐を小鉢に移し、薬味を上にのせ、醤油をかけて食べると簡単である。

 薬味は冷奴と基本的に同じであるが、削り鰹節ときざみねぎは必需品である。出し昆布は腐る物でもなく、高価な物でもないので、保存食として少量の袋入りを準備しておくと他の料理にも使える。

 豆腐と一緒に、乾燥湯葉をそのまま鍋にいれて、煮て食べるのも、湯豆腐のような「湯葉」となり、元来同根の食べ物であるから、歯応えがあってうまいものである。

 

 私の故郷岩手県盛岡市は、統計によると、豆腐の消費量が県庁所在地の中で一番多い。市内に4本の川が流れ、良質の水が豊富にある地形が背景にあると思う。また海から遠く、他にこれといった名産の食べ物がないせいでもあろう。

 夏に「寄せ豆腐」を食べる。お冷やご飯の昼飯は、他に茄子やきゅうりの漬物があればうまいものであった。夏になると、豆腐屋さんの軒先に「寄せ豆腐あります」という、昔ながらの、布ののぼりが掲げられる。

 いまでこそスチロールのパックで売っているが、昔は鍋を持って買いに行ったものである。大きな桶の中からお玉で掬って、鍋に入れてくれる。豆乳の薫り高い、かろうじて箸で摘めるやわらかな豆腐である。薬味をのせて醤油をかけて食べる。

 冬には凍り豆腐が名物で、藁(わら)で繋げて売っている。「凍(し)み豆腐」とも言い、凍らせて乾燥させた(天然のフリーズドライ)保存食品であり、高野豆腐のようなものであるが、幾分目が粗い。

 盛岡の雑煮には、この凍み豆腐が芹・腹子(鮭の卵)とともに欠かせない。また冬の味噌汁の重要な具でもある。

冷奴や湯豆腐は、一人暮らしのとき、1丁分では多い(他の物を食べられなくなる)ので、半分残して冷凍し、凍り豆腐にしておく。余った豆腐は、パックのなかで1cm位の幅に包丁で切り、水を切ってから冷凍庫に保存する。食べるときにはお湯をかけ、1枚づつばらして短冊形(短冊のような細い長四角)に切り、味噌汁の具にしたり、そのままの大きさで煮物に使う。竹輪や干し椎茸・雁もどきなどと煮てもいいし、おでんに使ってもよい。

 ついでに、油揚げも冷凍保存するといい。

さしすせそ

 醤油の話がでたので少し詳しく書いてみたい。 調味料を入れる順番は「さしすせそ」と言われている。

「さ」は砂糖であり、最初に甘い味を付けてから他の味をつけると砂糖の味が生きる。逆に醤油の味をしっかりとつけてからでは、砂糖の味は死んでしまう。

「し」は塩である。醤油ではない。

「す」はそのまま「酢」である。

「せ」は古語で「せうゆ=醤油」

「そ」は味噌でもいいしソースでもいい。ソースは完成品に直接かける。

 一人暮らしでなければできない「最高の贅沢」を教えてあげよう。 「塩・酢・醤油」は最高のものを揃えることである。

 塩はかつて日本専売公社、現日本たばこ産業の専売品であった。自由化になったので、民間の会社が天然の塩を作り売っている。塩化ナトリウムの結晶ではなく、塩以外のミネラルが入っている天然海水塩が1kg300円ほどで手に入る。

 一人で食べるのであれば3年から5年ぐらいは持つかもしれない。なにしろ腐らないのだ。但しさらさらしていないので、ゆで卵に振り掛けるには向かない。
 酢は高いものと安いものがある。原料と作り方の違いである。純米酢は300円ぐらい。穀物酢はその3分の1ぐらいの価格である。すっぱさは変わらない。何が違うかといえば、純米酢はツンという刺激が少なく、調味料であると感じる。1本300円の酢は1年ぐらい持つだろう。

 醤油もたくさんの種類がある。一人暮らしでは「丸大豆本醸造」を買える。1本1リットルで300円から400円ぐらい。実家では贅沢品であり、お母さんは特売で安い醤油を探しているだろう。
 味の違いは、煮物ではなかなかわからない。しかし冷奴や湯豆腐、納豆など、本物の日本の味を知るためには一度ぐらいは試してもいいと思う。

 うすくち醤油というものがある。主に関西で煮物に使われる。「うすくち」とひらがなでラベルに書いてある訳は漢字で書くと読めない人が多いからだ。「淡口」でうすくちと読む。「薄口」ではない。むしろ塩分は濃口醤油よりも多い。「うすくち」だから塩分が少ないだろうと思ってはいけない。
塩分が少ない醤油は減塩醤油である。